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AI支援コーディングは本当に開発を加速させるのか?「70%問題」と解決策

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AI技術の発展により、ソフトウェア開発の現場にも大きな変化が訪れています。特に、AIがコードの生成や補完を支援する「AI支援コーディング」は、開発者の生産性を劇的に向上させる可能性を秘めていると注目されています。しかし、その一方で、AI支援コーディングにはまだ課題も残されていることも事実です。

本記事では、GoogleのエンジニアリングマネージャーであるAddy Osmani氏のブログ記事「The 70% problem: Hard truths about AI-assisted coding」を基に、AI支援コーディングの現状、課題、そして将来の可能性について、具体的なツールを例に挙げながら解説します。

AI支援コーディングとは? - 期待と現実

AI支援コーディングとは、AI(人工知能)を活用して、ソフトウェア開発におけるコーディング作業を支援する技術の総称です。具体的には、コードの自動補完、エラー検出、リファクタリング提案、テストコード生成など、さまざまな機能が提供されています。これらの機能により、開発者はより少ない労力で、より高品質なコードを、より迅速に作成できるようになると期待されています。

しかし、Osmani氏が指摘するように、AI支援コーディングは万能ではなく、以下のような課題も存在します。

  • 品質のばらつき: AIが生成するコードは、必ずしも高品質とは限りません。場合によっては、バグを含んでいたり、非効率なコードであったりすることもあります。
  • ブラックボックス化: AIがどのようにコードを生成しているのかが、開発者にとって理解しにくい場合があります。これにより、問題が発生した際のデバッグが困難になる可能性があります。
  • 過度な依存: AIに頼りすぎると、開発者自身のスキルアップの機会が失われる可能性があります。

開発者によるAIの活用パターン - 「ブートストラッパー」と「イテレーター」

Addy Osmani氏によると、開発者は主に2つのパターンでAIを活用しています。

1. 「ブートストラッパー」:ゼロからの迅速なプロトタイプ作成

「ブートストラッパー」は、主にプロジェクトの初期段階で、AIを活用してゼロから迅速にプロトタイプを作成するパターンです。

  • 具体的なツール例:
    • v0 (Vercel):自然言語やスケッチからUIコンポーネントを生成
    • Bolt (StackBlitz):Webアプリケーション全体の骨組みを自動生成

これらのツールを使うことで、簡単な指示やデザインのスケッチから、UIコンポーネントやWebアプリケーションの骨組みを自動生成することができます。

2. 「イテレーター」:日々の開発を効率化

「イテレーター」は、日々のコーディング作業において、AIを活用してコードの補完やエラーチェック、リファクタリングなどを行うパターンです。

  • 具体的なツール例:
    • Cursor (VS CodeベースのIDE):コードベース全体を理解し、コンテキストに応じた提案
    • Cline (VS Code拡張機能):ブラウザ操作の自動化など、より高度なタスクに対応

これらのツールは、まるで優秀なペアプログラマーのように、開発者の作業をサポートしてくれます。

AI支援コーディングの「隠れたコスト」と「知識のパラドックス」

AI支援コーディングには「隠れたコスト」も存在します。

1. 「砂上の楼閣」コードのリスク

経験の浅いエンジニアがAI支援ツールを使う場合、AIが生成したコードの品質を十分に評価できず、見た目は動いているように見えても内部的には脆弱で保守性の低い、「砂上の楼閣」のようなコードを生成してしまうリスクがあります。

2. 経験豊富な開発者ほどAIを使いこなせる - 「知識のパラドックス」

AI支援コーディングツールは、経験豊富な開発者ほど効果的に活用できるという「知識のパラドックス」も存在します。AIが生成したコードの良し悪しを判断し、適切に修正するためには、ある程度のプログラミングスキルや経験が必要となるためです。

AI支援コーディングの「70%問題」と「二歩後退パターン」

非エンジニアが直面する壁 - 70%の落とし穴

AI支援コーディングは、プログラミングの知識がない人でも簡単にアプリケーションを開発できる「魔法の杖」のように思われがちです。しかし、実際には、非エンジニアがAI支援ツールを使って本格的なアプリケーションを開発しようとすると、70%までは順調に進んでも、残りの30%で様々な問題に直面し、完成までたどり着けないことが少なくありません。

AIの修正が新たなバグを生む - 「二歩後退パターン」

これは「二歩後退パターン」と呼ばれます。AIが提案する修正は、必ずしも正しいとは限りません。むしろ、問題をさらに複雑化させたり、新たなバグを生み出したりすることさえあります。AIによって生成されたコードにエラーが出た際に、何が間違っているのかを特定して修正を行うことは、プログラミング経験が少ないと非常に困難です。AIは人間の意図を完全に理解することはできず、文脈から外れた提案をしてしまうこともしばしばあります。

「学習のパラドックス」 - AI依存のリスク

さらに、AI支援コーディングツールを使い続けることで、プログラミングの基礎を学ぶ機会が失われ、「学習のパラドックス」と呼ばれる問題も生じます。

AI支援コーディングを効果的に活用するための3つのパターン

Addy Osmani氏は、AI支援コーディングを効果的に活用するための、以下の3つのパターンを提示しています。

  1. AIファーストドラフト:
    • まずAIに基本的な実装を生成させる
    • その後、人間が詳細をレビューし、モジュール化、エラー処理、テスト、主要な決定事項の文書化を行う
  2. コンスタントカンバセーション:
    • 個別のタスクごとに新しいAIチャットを開始
    • コンテキストを最小限に絞り、変更を頻繁にレビューしてコミット
  3. トラスト・バット・ベリファイ:
    • AIに初期コードの生成を任せる
    • クリティカルパスは手動でレビュー
    • 自動テストでエッジケースをカバー
    • 定期的なセキュリティ監査

これらのパターンを活用することで、AIの能力を最大限に引き出しつつ、人間が品質を担保することができます。

AI支援コーディングツールの具体的な活用事例

1. V0:UIコンポーネントを迅速に生成

Vercelの「v0」は、自然言語による指示や、簡単なスケッチから、UIコンポーネントを生成できるツールです。ReactとNext.jsのエコシステムと非常に相性が良く、Tailwind CSSやShadcn UIといった人気のライブラリにも対応しています。例えば、「ログインフォームを作成して」と指示するだけで、基本的なログインフォームのコードを生成してくれます。

図4:v0によるサインアップフォーム生成例

2. Bolt:フルスタックアプリケーションの構築を支援

StackBlitzの「Bolt」は、より本格的なWebアプリケーションの構築を支援するツールです。Boltは、AIモデルにファイルシステム、パッケージマネージャー、ターミナル、ブラウザコンソールへの完全な制御を与え、UIの生成からコードの作成、デプロイ、他の開発者との共同作業まで、あらゆる作業を効率化してくれます。Boltを使えば、認証機能付きのデータベース連携、サードパーティサービスのセットアップなどを伴うアプリ開発も可能です。

図5: BoltによるBlogのブートストラップ生成例

3. Cursor と Cline:VSCodeに統合されたAIコーディング

AI支援コーディングツールには、VS Codeと連携して動作するものや、VS Codeをベースとした独立したIDEとして提供されているものがあります。

  • Cursor: コードベース全体の把握、コンテキストに応じた提案、複数モデルの選択(GPT-4, Claude 3.5 Sonnet, Gemini 1.5 Proなど)、Gitスタイルの差分表示、チャットによるコード生成などの機能を備えています。
  • Cline: Anthropicの「computer use」機能に対応しており、ブラウザの起動、要素のクリック、テキスト入力、スクロール、スクリーンショットのキャプチャなどが可能です。これにより、例えばテストの自動化なども支援します。

Cursorのインターフェース

Clineによるエラーの自動修正 Cline fix React errors

AI支援コーディングの未来 - Agentic ソフトウェアエンジニアリング

AI支援コーディングの技術は、日々進化を続けています。将来的には、「エージェント」と呼ばれる、より自律的に動作するAIが登場し、ソフトウェア開発のあり方を大きく変える可能性があります。Agentic ソフトウェアエンジニアリングとは、AIエージェントが自律的にソフトウェア開発のタスクを実行する、新しい開発パラダイムです。

自律的に動く「エージェント」とは?

エージェントとは、単にコードを生成するだけでなく、自ら問題を発見し、解決策を提案し、実行することができるAIのことです。例えば、Anthropicの「computer use」機能やCognition AIの「Devin」は、エージェントの一例と言えるでしょう。

マルチモーダルな未来 - 視覚、言語、環境の統合

将来的には、視覚的な情報(UIデザイン、モックアップなど)、自然言語による指示、そして開発環境との連携を統合した、「マルチモーダル」なAI支援コーディングツールが登場する可能性があります。これにより、開発者は、より直感的かつ効率的に、AIと協力してソフトウェアを開発できるようになるでしょう。

まとめ - AI支援コーディングを使いこなし、開発を加速させよう

AI支援コーディングは、開発者の生産性を高め、より創造的な作業に集中できる環境を提供してくれます。しかし、AIは万能ではなく、その能力を最大限に引き出すためには、開発者自身のスキルや経験も重要です。Addy Osmani氏の記事では、AI支援コーディングの現状と課題が明確に示されており、「70%問題」や「砂上の楼閣」コードのリスクについても言及されています。

AI支援コーディングを効果的に活用するためには、以下の4つの点を意識することが重要です。

  • 要件定義を明確にする
  • タスクに適切なモデルを選択する
  • トークン制限とコストを考慮する
  • 頻繁にテストを行い、UIとコアロジックを再検証する

また、Addy Osmani氏が提唱する「AIファーストドラフト」「コンスタントカンバセーション」「トラスト・バット・ベリファイ」といったパターンも参考に、AIと人間の協調による新しい開発スタイルを模索していくことが、今後のソフトウェア開発を加速させる鍵となるでしょう。


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