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PRスループットはコード行数のカウントと同じか?SPACE共著者Brian Houck氏の見解
開発生産性計測の進化と課題:SPACEフレームワークの可能性
ソフトウェア開発組織にとって、開発生産性を効果的に計測することは至上命題です。3年以上前に提唱されたSPACEフレームワークは、包括的な開発生産性計測のアプローチとして注目を集め、現在もなお多くの開発組織で活用が検討されています。先日公開されたポッドキャストで、MicrosoftのBrian Houck氏(SPACEフレームワーク共著者)は、多くの企業がその実装に苦戦している現状を指摘しました。
SPACE vs. DORA:2つのフレームワークの比較と落とし穴
Houck氏は、SPACEフレームワークとDORAの特性の違いを理解することの重要性を強調しています。デプロイ効率に焦点を絞り、具体的な4つの指標を提示するDORAに対し、SPACEはより包括的な5つの指標で構成されています。この柔軟性がSPACEの強みであると同時に、落とし穴にもなり得ます。5つすべての指標を同時に測定しようとして焦点がぼやけ、分析が複雑化してしまう組織もあれば、逆にどこから手を付ければよいか分からず導入に苦労する組織もあるのです。
このような問題を避けるため、Houck氏は開発者への調査を通して具体的な課題を特定し、組織独自のニーズに合った指標を優先的に計測することを推奨しています。これは、GoogleのColin氏とSierra氏をはじめとする多くのDevExリーダーが提唱する「開発者体験向上のためには、開発者自身の声を重視した指標策定が不可欠」という考え方にも合致するものです。
PRスループット:その真価と誤った解釈
SPACEフレームワークの中でも特に議論を呼ぶのが、Activity指標の一部として挙げられるPRスループットです。Houck氏は、PRスループットは個人のパフォーマンス評価には適さない指標だとしながらも、システムの健全性把握やコードフローの摩擦点特定には非常に有用だと説明しています。遅いCIビルドや非効率なコードレビュープロセスなど、自動化プロセスと人的プロセスの両方に潜むボトルネックを明らかにする強力なツールとなるのです。ただし、PRスループット単独で判断するのではなく、開発者の満足度など他の指標と合わせてバランス良く活用することが重要です。
MicrosoftにおけるPRスループット活用事例:リモートワークが及ぼした影響
Houck氏は、2020年3月のリモートワーク移行初期におけるMicrosoftでのPRスループットの急増を例に挙げ、この指標の多角的な解釈の必要性を示唆しました。PRスループットの増加はシステムの堅牢性の向上を示唆する一方で、労働時間の増加や開発者の燃え尽き症候群の蔓延といった予期せぬ問題を浮き彫りにしたのです。
PRスループット vs. コード行数:価値という新たな視点
PRスループットは、しばしばコード行数のカウントと同一視され、批判の対象となります。しかしHouck氏は、PRはコード行数とは異なり、「価値の単位」であると主張します。小さく頻繁なPRは、一見指標操作のように思われがちですが、実際にはコードフローの円滑化と摩擦の低減に貢献する、生産性向上の重要な要素なのです。
AIと開発生産性:GitHub Copilotとの相乗効果
AI、特にGitHub Copilotのようなツールは、開発生産性に大きな影響を与えています。Houck氏は、AIツールがSPACEフレームワークの各指標にどう影響するかを分析し、PRスループット向上におけるAIの役割についても言及しています。
人間中心の開発生産性に向けて
Houck氏の洞察は、開発生産性計測の進化における重要な視点を提供するものです。SPACEやPRスループットといった指標の可能性と限界を正しく理解し、データに基づいた洞察と開発者の健康状態への配慮を組み合わせることで、真に人間中心の開発生産性計測が可能になるでしょう。
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