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Core 4で開発生産性を最大化!導入事例とベンチマークを徹底解説

近年、ビジネス環境の変化が加速する中で、企業競争力を高めるためには、ソフトウェア開発のスピードと効率、つまり「ベロシティ」の向上が不可欠となっています。開発者一人ひとりの生産性を高め、チームとしてのアウトプットを最大化することが、企業の成長を左右する重要な要素となっているのです。
開発生産性向上の重要性と従来の課題
ベロシティ(速度)への注目とその理由
なぜ、ベロシティがこれほどまでに注目されるのでしょうか?それは、迅速な開発が市場への早期参入を可能にし、顧客ニーズをいち早く捉えた製品やサービスを提供できるからです。Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏も「他のどの企業よりも早く学習できれば、我々は勝てる」と述べているように、迅速な開発と学習のサイクルは、競争優位を築くための重要な鍵となります。
従来のフレームワーク(DORA, SPACE, DevEx)の限界
これまでも、開発者の生産性を測定・向上させるためのフレームワークとして、DORA、SPACE、DevExなどが提唱されてきました。
- DORAは、主に以下の4つの指標(Four Keys)を用いて、ソフトウェアデリバリーのパフォーマンスを測定します。
- デプロイの頻度 - 組織が正常に本番環境にリリースする頻度
- 変更のリードタイム - commit から本番環境稼働までの所要時間
- 変更障害率 - デプロイが原因で本番環境で障害が発生する割合
- サービス復元時間 - 組織が本番環境での障害から回復するのにかかる時間
- SPACEは、以下の5つの側面から、より包括的に生産性を捉えようとしています。
- Satisfaction and well-being(満足度とウェルビーイング)
- Performance(パフォーマンス)
- Activity(アクティビティ)
- Communication and collaboration(コミュニケーションとコラボレーション)
- Efficiency and flow(効率とフロー)
- DevExは、開発者エクスペリエンスに焦点を当て、以下の3つの要素を重視しています。
- フィードバックループ
- 認知的負荷
- フロー状態
しかし、これらのフレームワークは、それぞれに強みがある一方で、いくつかの課題も抱えていました。例えば、DORAはデリバリーのパフォーマンスに特化しているため、開発者エクスペリエンスやビジネスへのインパクトといった側面が考慮されていません。SPACEは包括的であるがゆえに、具体的な測定指標が不明瞭な部分がありました。DevExは開発者エクスペリエンスに焦点を当てていますが、ビジネス成果との関連性が弱いという指摘もあります。
Core 4: 開発者の生産性を測る4つの柱
こうした従来の課題を解決し、より包括的かつ実践的なフレームワークとして登場したのが「Core 4」です。Core 4は、DORA、SPACE、DevExの生みの親たちと、開発者向けプラットフォームを提供するDX社のCTO、Laura Tacho氏が共同で開発した、開発者の生産性を測定・向上させるための統一フレームワークです。
Core 4の概要 - 従来のフレームワークとの違い
Core 4は、従来のフレームワークの長所を統合し、より実践的な測定指標を提供しています。最大の特徴は、開発者の生産性を「Speed(スピード)」「Effectiveness(有効性)」「Quality(品質)」「Impact(インパクト)」の4つの柱で捉え、それぞれに主要指標と補助指標を設定している点です。
図表1: Core 4フレームワーク - Speed, Effectiveness, Quality, Impactの4つの柱から開発者の生産性を評価
Speed(スピード): 開発の迅速性を測る
Speedは、開発プロセスの迅速性を測定します。主要指標は「PR throughput(単位時間あたりのプルリクエスト数)」です。これは、一定期間内にエンジニアが作成し、マージされたプルリクエストの数を示し、数値が高いほど開発スピードが速いことを意味します。補助指標には、「Lead time(リードタイム)」「Deployment frequency(デプロイ頻度)」「Perceived rate of delivery(開発速度に対する認識)」などがあります。
Effectiveness(有効性): 開発者の満足度と効率を測る
Effectivenessは、開発者の満足度と効率を測定する指標です。主要指標として「Developer Experience Index (DXI)」が用いられます。これは、アンケート調査などを通じて、開発者の業務に対する満足度や、開発環境の使いやすさなどを総合的に評価する指標です。補助指標には、「Time to 10th PR(10個目のPRを出すまでにかかる時間)」「Ease of delivery(デリバリーの容易さ)」「Regrettable attrition(残念な離職率)」などがあります。
Quality(品質): 成果物の品質を測る
Qualityは、開発されたソフトウェアやサービスの品質を測定します。主要指標は「Change failure rate(変更失敗率)」です。これは、デプロイされた変更のうち、障害や不具合を引き起こしたものの割合を示し、数値が低いほど品質が高いことを意味します。補助指標には、「Failed deployment recovery time(障害復旧時間)」「Perceived software quality(ソフトウェア品質に対する認識)」「Operational health and security metrics(運用状態とセキュリティの指標)」などがあります。
Impact(インパクト): 事業への貢献度を測る
Impactは、開発活動が事業に与える影響を測定します。主要指標は「新機能開発に費やされた時間の割合」です。補助指標には、「Initiative progress and ROI(取り組みの進捗とROI)」「Revenue per engineer(エンジニア一人当たりの収益)」「R&D as % of revenue(収益に対する研究開発費の割合)」などがあります。
Core 4を用いた生産性の測定方法
Core 4では、主にアンケート調査とワークフローツールからのデータ収集という2つの方法を用いて、開発者の生産性を測定します。
従業員アンケート調査の実施
Core 4の主要指標の一つである「Developer Experience Index (DXI)」を測定するためには、従業員アンケート調査が有効です。この調査では、開発者の業務に対する満足度や、開発環境の使いやすさなどを評価します。
図表2: Core 4アンケート調査テンプレート - 開発者エクスペリエンスの測定に活用
アンケートテンプレートやサンプル質問をまとめたシート も参考にしてください。
ワークフローツールからのデータ収集
「PR throughput」や「Change failure rate」などの指標は、GitHubなどのワークフローツールからデータを収集して測定します。これらのデータを活用することで、開発プロセスのボトルネックを特定し、改善につなげることができます。
Core 4の活用事例 - 企業Aのケース
ここでは、Core 4を導入することで、開発者の生産性向上に成功した企業Aの事例を紹介します。
導入前の課題と目標設定
企業Aでは、開発スピードの遅さと、それに伴う開発者のモチベーション低下が課題となっていました。そこで、Core 4フレームワークを導入し、まずは現状の生産性を正確に把握することから始めました。アンケート調査とワークフローツールのデータ分析の結果、特に「Speed」と「Effectiveness」の指標が低いことが明らかになりました。
改善施策と結果 - PRサイクルタイムを40%削減
詳細な分析の結果、企業Aでは継続的インテグレーション(CI)のツールとリリースプロセスに問題があることが判明しました。そこで、CIツールの改善とリリースプロセスの自動化に取り組んだ結果、「PR throughput」が向上し、PRサイクルタイムを40%削減することに成功しました。これは、1週間あたり1,000時間以上の工数削減に相当します。
図表3: 企業AにおけるCore 4導入効果 - PRサイクルタイムを40%短縮
Core 4ベンチマーク - 業界平均との比較
Core 4では、 各指標について業界平均との比較データ(ベンチマーク)を提供しています 。これにより、自社の生産性が業界平均と比べてどの程度なのかを把握することができます。
各指標のベンチマークデータ
以下の表は、Core 4の各指標におけるP50(中央値)、P75(上位25%)、P90(上位10%)の値を示しています。
図表4: 全業界におけるCore 4ベンチマークデータ
指標 | P90 | P75 | P50 |
---|---|---|---|
Speed(PR throughput) | 4.3 | 4.0 | 3.5 |
Effectiveness(Developer Experience Index) | 78 | 71 | 60 |
Quality(Change failure rate) | 3.0% | 3.4% | 4.0% |
Impact(新機能開発に費やされた時間の割合) | 66.1% | 61.6% | 59.2% |
75パーセンタイル値を目標にする理由
Core 4では、初期の目標値として75パーセンタイル値を推奨しています。これは、75パーセンタイル値が現実的に達成可能でありながら、十分な改善効果が見込める水準であるためです。
まとめ - Core 4で開発チームのパフォーマンスを最大化
Core 4は、開発者の生産性を「Speed」「Effectiveness」「Quality」「Impact」の4つの柱で捉え、それぞれに主要指標と補助指標を設定した、包括的かつ実践的なフレームワークです。アンケート調査とワークフローツールのデータ収集により現状を把握し、ベンチマークデータと比較することで、改善すべき領域を明確にできます。そして、企業Aの事例のように、Core 4を活用して課題を特定し、適切な改善施策を実行することで、開発チームのパフォーマンスを最大化することができるのです。
あなたのチームも、Core 4を活用して、開発生産性の向上に取り組んでみてはいかがでしょうか?
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参考資料: