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「成果物が全然違う…」デザイナーとエンジニアのすれ違いを防ぐ4つの鍵

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ソフトウェア開発の現場で、「デザイナーが意図したデザインと、エンジニアが実装した成果物が全く違う…」という経験はありませんか。このような手戻りは、プロジェクトの遅延やチーム内の不和を招く大きな要因となります。多くのチームがSlackやMicrosoft Teamsといったコミュニケーションツールを導入しているにもかかわらず、なぜこのような「すれ違い」は後を絶たないのでしょうか。

本記事では、オウル大学が発表した論文「Bridging the Gap Between Designers and Developers in Software Development」(2025年)に基づき、この根深い課題を解決するための具体的な方法を探ります。この研究は、実際にソフトウェア開発の現場で働くデザイナー4名とエンジニア4名へのインタビューを通じて、連携を阻む障壁と、それを乗り越えるための実践的なアプローチを明らかにしました。

なぜ?あなたのチームでも起こっているかもしれない「連携の3大障壁」

デザイナーとエンジニアの連携がうまくいかない原因は、個人のスキルややる気の問題ではなく、チームのプロセスや構造に潜む「障壁」にある、とこの研究は指摘します。まずは、多くのチームが直面している3つの代表的な障壁を見ていきましょう。

障壁1:「言ったはず」が通用しない、専門用語と認識のズレ

例えば、デザイナーが「ここのマージンをもう少し広げて、ネガティブスペースを活かしたレイアウトにしたい」と伝えたとします。デザイナーの意図は「要素間の視覚的なゆとりを持たせ、コンテンツの可読性を高める」ことですが、エンジニアには「マージンを具体的に何ピクセル広げるのか?」という実装に必要な情報が不足しています。

この研究に参加したエンジニアの一人は、「デザイナーが使う専門用語が会議で飛び交っても、私たちはその意味が全く分からなかった」と語っています。このような専門用語の違いや曖昧な表現による認識のズレが、誤った実装や無駄な修正作業を生み出しているのです。

障壁2:「完成してから言われても…」手戻りを生む、エンジニアの関与の遅れ

あなたのチームでは、デザインがほぼ完成してからエンジニアに共有される、という流れになっていませんか。この「関与の遅れ」こそが、致命的な手戻りを生む第二の障壁です。

エンジニアがデザインプロセスから切り離されていると、技術的な実現可能性やパフォーマンスへの影響が考慮されないままデザインが進んでしまいます。その結果、開発段階で「そのデザインは実装が困難です」「パフォーマンスが著しく低下します」といった問題が発覚し、大幅なデザイン修正が必要になるのです。あるデザイナーは、「エンジニアがもっと早い段階でプロセスに参加していれば、こんなことにはならなかった」と、関与の遅れがもたらす非効率性を嘆いています。

障壁3:「なぜこのデザイン?」意図が伝わらない知識のギャップ

三つ目の障壁は、互いの専門領域に対する理解不足、すなわち「知識のギャップ」です。エンジニアはユーザー体験(UX)の原則やデザインの意図を十分に理解しないまま、見た目だけを実装してしまうことがあります。一方で、デザイナーもコーディングの制約やシステムの仕組みを知らないため、非現実的なデザインを提案してしまうことがあります。

下の図表は、この知識のギャップが引き起こした実装ミスの一例です。左のデザイン案に対し、右の実装結果を見ると、ボタンのサイズや全体の余白、アイコンの色などが異なり、デザインの意図が正しく反映されていません。これは、エンジニアがデザインの細部に込められたUX上の意図を理解していなかったために起こった典型的な失敗例と言えるでしょう。

デザイン指示と実装結果の乖離例

すれ違いをなくす「4つの鍵」|研究から学ぶ実践的アプローチ

では、これらの根深い障壁を乗り越え、円滑な連携を実現するためにはどうすれば良いのでしょうか。同研究では、成功しているチームに共通する「4つの鍵」が明らかになりました。

鍵1:【手戻り対策】エンジニアを「デザインの初期段階」から巻き込む

最も重要な鍵は、エンジニアの 「早期の関与」 です。これは、前述の 障壁2(関与の遅れ)障壁3(知識のギャップ) を解消する上で極めて効果的です。

デザインのアイデア出しやスケッチといったごく初期の段階からエンジニアに参加してもらうことで、「このデザインは技術的に可能か」「もっと効率的な実装方法はないか」といった貴重なフィードバックを得ることができます。あるデザイナーは、「私たちはユーザーインタビューの段階からエンジニアを巻き込みます。これにより、彼らはユーザー視点と技術的実現可能性の両方を理解してくれるのです」と語ります。エンジニアを単なる「実装者」ではなく、「共創者」として扱うことで、手戻りが減るだけでなく、チーム全体の当事者意識とモチベーションも向上します。

次のスプリント計画会議やデザインレビューにエンジニアを招待し、「このデザインで技術的に懸念される点はありますか?」と意見を求めてみましょう。

鍵2:【認識のズレ対策】Figmaをハブにした「コミュニケーション戦略」

二つ目の鍵は、ツールを効果的に活用した 「コミュニケーション戦略」 です。これは、 障壁1(認識のズレ) を直接的に解決します。

この研究では、参加者の多くが日常的な議論の場としてMicrosoft Teamsを挙げていましたが、重要なのはツールそのものではなく、その 「使い方」 です。成功しているチームは、Figmaをデザインの共有とフィードバックの 「ハブ(中心)」 として明確に位置づけていました。Figmaのコメント機能は、デザインの特定箇所を指し示しながら具体的な議論ができるため、認識のズレを防ぐのに非常に有効です。下の 図表は、エンジニアからの質問に対し、デザイナーがFigmaのコメントとプロトタイプを使って回答している様子です。このような文脈に沿ったコミュニケーションが、曖昧さをなくし、開発をスムーズに進めます。

Figmaのコメント機能を活用したコミュニケーション例

そして、日常的なやり取りに使うチャットツールは、一つに絞ることが重要です。ある参加者は「当初、DiscordとTeamsを併用していて混乱した。コミュニケーションのプラットフォームを一つに絞ることが強く推奨される」と述べています。ツールが乱立すると情報が分散し、重要な議論を見逃す原因になるため、チームの「情報ハブ」を一元化することが成功の鍵となります。

鍵3:【意図の誤解対策】「分野横断的な知識」で共通言語を育む

三つ目の鍵は、互いの領域を学び合う 「分野横断的な知識」 の醸成です。これにより、 障壁3(知識のギャップ) を埋め、 障壁1(認識のズレ) の原因となる「共通言語のなさ」を解消します。

デザイナーがHTML/CSSの基本を理解すれば、より実現可能なデザインを作成できます。同様に、エンジニアがUXの基本原則を知れば、デザインの意図を汲み取った実装ができるようになります。この知識のギャップを埋める効果的な方法が、注釈付きモックアップの活用です。

以下の図表のように、Figmaのデザインデータ上に「なぜこのUIなのか」「どのような挙動を期待しているのか」といった注釈を具体的に書き込むことで、デザイナーの意図がエンジニアに正確に伝わります。これは、単なるデザインカンプの受け渡しではなく、デザインの意図そのものを共有する行為であり、チームの共通理解を深める上で非常に強力な武器となります。

Figmaの注釈機能を活用した仕様伝達の例

次に共有するFigmaのデザインデータに、UIの意図や期待するインタラクションに関する注釈を一つだけでも追加してみましょう。

鍵4:【継続的な改善】心理的安全性が高い「アジャイルな組織文化」を築く

最後の鍵は、ここまで述べてきた3つの鍵を支える土台となる 「アジャイルな組織文化」 です。これは、3つの障壁すべてに根本から対処するアプローチです。

研究に参加した成功しているチームは、デイリースタンドアップやスプリントごとのレビューといったアジャイルな儀式を通じて、継続的に対話し、フィードバックし合う文化を持っていました。重要なのは、手法そのものではなく、「短いサイクルで反復し、常に対話し、変化に対応する」というマインドセットです。あるデザイナーは「ウォーターフォールかアジャイルかは問題ではない。常に反復的であることが重要なのだ」と強調しています。

下の図表が示すように、反復的なデリバリーや迅速なフィードバックといったアジャイルな実践は、オープンなコミュニケーションや相互尊重といった組織文化と一体となって初めて機能します。心理的安全性が確保された環境で、役職に関係なく誰もが自由に意見を言える文化こそが、継続的な改善サイクルを生み出し、チームを成功に導くのです。

アジャイルな実践と組織文化の相乗効果

まとめ:最高のチームは、ツールやプロセスより「互いへの敬意」を大切にする

本記事では、オウル大学の研究に基づき、デザイナーとエンジニアの連携を阻む3つの障壁と、それを乗り越えるための4つの鍵について解説しました。

  1. 早期の関与: 手戻りをなくすため、デザインの初期段階からエンジニアを巻き込む。
  2. コミュニケーション戦略: ツールを整理し、Figmaなどを活用して認識のズレを防ぐ。
  3. 分野横断的な知識: 互いの領域を学び、注釈などで意図を伝える努力をする。
  4. アジャイルな組織文化: 継続的な対話と心理的安全性を重視する。

結局のところ、円滑な連携の根幹にあるのは、ツールや洗練されたプロセスだけではありません。それは、互いの専門性に対する「敬意」と、より良い製品を共に作り上げようとする「共通の目的意識」です。あなたのチームでも、今日からこの4つの鍵を意識してみてはいかがでしょうか。きっと、開発プロセスはより創造的で、生産的なものに変わっていくはずです。


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参考資料:

Author: vonxai編集部

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