Home

アジャイル対ウォーターフォール:開発者の認知負荷と生産性を比較した2025年最新調査

公開日

img of アジャイル対ウォーターフォール:開発者の認知負荷と生産性を比較した2025年最新調査
•••

ソフトウェア開発の現場において、アジャイルとウォーターフォールのどちらを採用するかは、プロジェクト管理における永遠のテーマです。多くの議論は「納期」や「コスト」に集中しがちですが、開発手法の違いがエンジニア自身の「認知負荷」や「幸福度」にどのような影響を与えるか、定量的に語られることは多くありません。

本記事では、Franck L. Donald氏が発表した研究論文「Cognitive Load and Developer Productivity Analysis Across Agile and Waterfall Software Development Life Cycle Phases」(2025年)に基づき、両手法における開発者の認知負荷と生産性の違いを解説します。5社のテック企業と72名の開発者を対象とした調査データから、開発者のメンタルヘルスとパフォーマンスへの影響を解説します。

調査の概要:開発者の「認知負荷」と「生産性」を測定

この研究は、ハイブリッドワーク環境を採用している北米およびヨーロッパの中~大規模テック企業5社を対象に行われました。調査に参加した開発者72名は、以下の2つのグループに分類されています。

  • アジャイルチーム: 38名
  • ウォーターフォールチーム: 34名

研究チームは、開発プロセスにおける「認知負荷」と「生産性」の関係を明らかにするため、以下の指標を用いてデータを収集しました。

  1. 認知負荷の測定: 航空宇宙分野などで広く使われる NASA-TLX(NASA Task Load Index) を使用し、精神的な要求度や努力レベルを数値化。
  2. 生産性の測定: ベロシティ(1週間あたりのストーリーポイント)、サイクルタイム(着手から完了までの日数)、欠陥率(コード1,000行あたりのバグ数)などの客観的指標を取得。

これらに加え、JIRAのログやウェアラブルデバイスによる生体データも分析に活用されました。

アジャイルとウォーターフォール、認知負荷のピークはどこにあるか

調査結果によると、開発手法によって「開発者が最も精神的な負担を感じるタイミング」が明確に異なることが判明しました。

アジャイル:計画とレビューでの負荷が高い

アジャイル開発者は、 「スプリント計画」 および 「レビュー」 のフェーズで高い認知負荷を報告しました。頻繁な計画の立案や、短いサイクルでの成果報告が精神的な負担となっているようです。一方で、反復的なフィードバックが得られる 「実装」 フェーズでは、認知負荷が軽減される傾向が見られました。

ウォーターフォール:最初と最後に負荷が集中する

対照的にウォーターフォール開発者は、プロジェクトの初期段階である 「要件定義」 と、最終段階である 「テスト」 において認知負荷がピークに達しました。これは、後工程での変更が困難であるというプレッシャーや、リリース直前の統合テストにおける緊張感が影響していると考えられます。実装期間中は比較的安定した負荷レベルで推移します。

生産性データの比較:スピードのアジャイル、品質のウォーターフォール

では、実際の生産性にはどのような違いが出たのでしょうか。以下の表は、両手法における生産性指標の平均値を比較したものです。

Metric (指標)アジャイル (Mean)ウォーターフォール (Mean)
ベロシティ(週あたり)24.517.2
サイクルタイム(日数)6.39.7
欠陥率(バグ数/1000行)3.42.7

図表2:手法別の開発者生産性指標

データの読み解き

  • スピード(ベロシティ, サイクルタイム): アジャイルチームはウォーターフォールチームに比べ、ベロシティが高く、サイクルタイムも短い結果となりました。これは、反復的な開発プロセスがスピードと納品頻度の向上に寄与していることを示しています。
  • 品質(欠陥率): 一方で、欠陥率(バグの発生率)に関しては、アジャイルの方がわずかに高く(3.4)、ウォーターフォールの方が低い(2.7)結果となりました。ウォーターフォールにおける事前の詳細なドキュメント作成や構造化されたQAプロセスが、品質の安定に寄与していることがうかがえます。

まとめ:データに基づく最適な開発スタイルの選択

この研究結果は、開発手法の選択において「スピード」と「品質」、そして「開発者のメンタルヘルス」の間にトレードオフが存在することを示唆しています。

  • アジャイルが適しているケース: 市場の変化が激しく、スピードと適応性が最優先されるプロジェクト。ただし、計画やレビューの段階で開発者に過度な精神的負担がかからないよう、マネージャーによる配慮が必要です。
  • ウォーターフォールが適しているケース: 失敗が許されない規制されたシステムや、極めて高い品質が求められるプロジェクト。ただし、プロジェクト終盤のテスト期間における負荷集中を緩和するためのスケジュール管理が不可欠です。

万能な開発手法は存在しません。組織のリーダーやマネージャーは、単に流行の手法を取り入れるのではなく、プロジェクトの特性とメンバーの精神的な健康状態を考慮し、柔軟にワークフローを構築することが大切です。場合によっては、両者の利点を取り入れたハイブリッドなアプローチも、有効な選択肢の一つとなるでしょう。


開発生産性やチームビルディングにお困りですか? 弊社のサービス は、開発チームが抱える課題を解決し、生産性と幸福度を向上させるための様々なソリューションを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください!

参考資料:

Author: vonxai編集部

Google Scholarで開発生産性やチーム開発に関する論文を読むことが趣味の中の人が、面白かった論文やレポートを記事として紹介しています。