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デジタルスキル標準ver2.0と人工知能基本計画が示すAX時代の組織設計

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開発生産性
デジタルスキル標準ver2.0と人工知能基本計画が示すAX時代の組織設計
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生成AIの普及や自律的にタスクを遂行するエージェント型AIの登場により、企業におけるデジタル変革は、単なる既存プロセスの効率化(DX)から、AIの活用を前提として業務やビジネスモデルを根本から見直す「AX(AIトランスフォーメーション)」の段階へと移りつつあります。ソフトウェア開発の現場でも、AIツールの活用にとどまらず、プロダクト開発やデータ連携の基盤をどのように再設計すべきか模索するエンジニアリングマネージャーや開発者が増えています。

こうした転換期において、経済産業省および独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は2026年4月に「デジタルスキル標準 ver.2.0」を公表しました。同年7月には、政府が「人工知能基本計画」を閣議決定し、国全体でAXを加速させる方針を示しています。本記事では、これら2つの公式文書を基に、DXからAXへの進展がもたらす組織・人材定義の変化と、開発チームにおけるスキルの取り扱いについて解説します。

政府の「人工知能基本計画」が描くAXと5つの人材像

2026年7月に閣議決定された「人工知能基本計画」では、AIが従来の「文書作成などを支援するツール」から「組織や社会の意思決定と実行を担える主体」へと進展している現状が示されています。

特に、目的達成に向けて自ら計画・実行・検証を繰り返す「エージェント型AI」や、産業現場に特化した「バーティカルAI」、現実空間で動作するロボットなどの「フィジカルAI」の社会実装が、日本の産業競争力を高める重点分野として位置づけられました。

同計画では、AIの利活用や開発を担う人材として、以下の表1に示す5つの人材像が整理されています。

人材像定義・役割
AI適正活用人材AIに関する基礎的な知見として最低限のリテラシーを身につけ、適正な形でAIを利活用できる人材(すべての国民が目指すべきもの)。
AI研究開発人材AIの研究開発に係る研究者やエンジニア等の人材。AIに関する深い理解・洞察を有する高度専門人材であり、基礎研究や開発を担う。
AI実装人材汎用的なAIソリューションではなく、現場に適合したAIソリューションを提供する人材。産業・行政の現場とAIの双方を理解することが求められる。
AIガバナンス人材安全・安心で信頼できるAIを開発・活用するためのルールや仕組み等を整備・運用する人材。ガバナンス構築を主導する人材も含む。
AIイノベーション人材AIを利活用して、経済・社会構造の変革や付加価値の創出を行い、課題解決を先導する人材。

表1:人工知能基本計画で整理された5つのAI人材像

また計画内では、AIに判断を委ねきりにするのではなく、人がどの程度関与するかという「責任のあり方」として次の3形態が挙げられています。

  • Human in the loop:人がAIのタスク実行の流れに直接関与する仕組み
  • Human on the loop:タスク実行自体はAIに任せつつ、全体の設計や監視を人が担う仕組み
  • Human in the lead:人がAIをツールとして統制し、意思決定や価値創出の主導権を握る仕組み

このように、人の主体性や判断責任を維持した上でAIと協働する体制づくりが求められています。

デジタルスキル標準ver.2.0の全体像と6類型

政府の基本計画が提示する大きな方針に対し、現場の人材育成や組織編成の具体的な指針となるのが「デジタルスキル標準 ver.2.0」です。

ver.2.0への改訂では、AIモデルに供給するデータの信頼性確保やパイプライン構築の重要性が高まったことを受け、従来の5類型から「データマネジメント」を加えた6類型へと拡張されました。

以下の表2は、改訂後のDX推進スキル標準で定義されている6つの類型とその概要です。

類型定義・役割の概要主なロール
ビジネスアーキテクト経営視点で最適なビジネスモデルと業務プロセスを設計し、戦略を行動に落とし込んで変革全体を牽引する役割。ビジネスアーキテクト、ビジネスアナリスト、プロダクトマネージャー
デザイナー顧客・ユーザー視点やコミュニケーション視点を総合的に捉え、製品・サービスの方針やあり方のデザインを担う役割。サービスデザイナー、UX/UIデザイナー、コミュニケーションデザイナー
データサイエンティストデータを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データ解析やAIシステムに関する仕組みの設計・実装・運用を担う役割。データビジネスストラテジスト、データサイエンスプロフェッショナル
データマネジメントデータの安全性・信頼性の確保と継続的な流通の仕組みを設計・実装・運用し、組織全体での価値創出を促進する役割。データスチュワード、データエンジニア、データアーキテクト
ソフトウェアエンジニアデジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う役割。フロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニア、クラウドエンジニア/SRE、フィジカルコンピューティングエンジニア
サイバーセキュリティ業務プロセスを支えるデジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う役割。サイバーセキュリティマネージャー、サイバーセキュリティエンジニア

表2:DX推進スキル標準ver.2.0の6類型と定義

新設されたデータマネジメント類型の役割分担

AIモデルの精度や安全性を保つためには、前処理やデータパイプラインの整備、適切なアクセス権限の管理が欠かせません。新設された「データマネジメント」類型は、こうした基盤を支える役割を3つのロールに分類しています。

以下の表3は、各ロールが担う責務と、特に高い実践力が求められるスキル項目をまとめたものです。

ロール主な責務高い実践力が求められるスキル
データスチュワード事業知識に基づき、データの品質・信頼性・安全性の確保に向けた運用を担い、現場へのデータ利活用を定着させる。・データ関連法令などの理解やルール整備と遵守の推進
・データマネジメントの定着とデータ活用の推進
・データの品質・安全性向上
データエンジニア収集・統合・加工などの各プロセスにおけるデータ整備や前処理を行い、データパイプラインの設計・実装を担当する。・データ関連法令などの理解やルール整備と遵守の推進
・データの品質・安全性向上
・データエンジニアリング(設計・収集・統合・提供)
データアーキテクト組織全体のデータ構造や流れを俯瞰し、事業戦略に沿ったデータライフサイクル全般のアーキテクチャを設計する。・データ関連法令などの理解やルール整備と遵守の推進
・データエンジニアリング(設計・収集・統合・提供)
・データマネジメントの仕組みの設計と改善

表3:データマネジメント類型における3ロールの責務と重点スキル

文書内の補足資料では、データスチュワードには「事業ドメインスキル」、データエンジニアには「ITスキル」、そしてデータアーキテクトには「両者を統合して全体を設計する理解」がそれぞれ強く求められると説明されています。

ビジネス変革と体験設計を担うロールの再編

ver.2.0では、データ領域の強化と並行して、ビジネス推進やデザインを担う職種についても現場の実態に即した再編が行われました。

ビジネスアーキテクト類型の切り分け方

ビジネスアーキテクト類型は、関与する変革マネジメントの階層と、施策に対する決定権・裁量権の違いによって3つに整理されています。

図1:変革の階層と裁量権によるビジネスアーキテクトのロール区分 図1:変革の階層と裁量権によるビジネスアーキテクトのロール区分

図1に示されている通り、各ロールの立ち位置は次のように整理されます。

  • ビジネスアーキテクト:全社的な構造管理や組織横断の方針立案を行い、施策ポートフォリオを設計する(決定権は経営層に帰属)。
  • ビジネスアナリスト:施策の実行段階で業務・システムを分析し、要件定義や利害調整を担う(決定権は限定的)。
  • プロダクトマネージャー:特定のプロダクトやプログラムに対して裁量権と成果責任を持ち、企画から改善までを統括する。

デザイナー類型におけるコミュニケーション領域の追加

デザイナー類型では、従来のプロダクトやサービスのUI/UX設計に加え、新たに「コミュニケーションデザイナー」が追加されました。

図2:プロダクトとコミュニケーションにおける各デザイナーのデザイン対象 図2:プロダクトとコミュニケーションにおける各デザイナーのデザイン対象

図2が示すように、サービスデザイナーやUX/UIデザイナーが「プロダクト(サービス)デザイン領域」を担うのに対し、コミュニケーションデザイナーはブランド方針の策定やメッセージングの設計など「コミュニケーションデザイン領域」を担います。開発したAIサービスやプロダクトの価値が正しく伝わり、利用者に定着するための導線づくりを担う位置づけです。

AX時代に向けて開発組織で活用できるポイント

今回改訂されたスキル標準や政府の基本計画は、個別の職種論として捉えるだけでなく、開発チームやプロジェクトを円滑に進めるための共通の枠組みとして活用できます。日々の開発や組織運営に取り入れられるポイントは次の3点です。

1. チーム内の役割分担と兼務の範囲を整理する基準にする

スキル標準に定義されているすべてのロールを最初から別々の専任者として揃える必要はありません。文書内でも、1人の担当者が複数のロールを兼務することや、組織の成熟度に合わせて一部の役割から順次配置していく進め方が想定されています。

自分たちのチームが現在「データ基盤の整備(データエンジニアやデータアーキテクトの役割)」を優先すべきフェーズなのか、「現場への定着や運用ルールの浸透(データスチュワードの役割)」に注力すべき段階なのかを棚卸しし、誰がどの責務を分担しているかを明確にする基準として利用できます。

2. エンジニアリングとデータ運用の境界を共通言語化する

AIを活用したプロダクト開発では、アプリケーション開発とデータパイプライン構築の境界が曖昧になり、タスクの押し付け合いや認識のズレが生じがちです。

スキル標準の共通スキルリストに記載された「データエンジニアリング」「データ基盤の設計・実装・運用」「データ契約」といった項目をチーム内の共通言語として用いることで、バックエンド開発者がどこまでパイプラインを設計し、誰がデータ品質を担保するのかといった要件定義やインターフェース設計をスムーズに合意形成できます。

3. AIガバナンスと責任分界をあらかじめ設計しておく

エージェント型AIや外部モデルを自社サービスに組み込む際、プライバシー保護やセキュリティ対策を後付けで対応しようとすると大きな手戻りが発生します。

人工知能基本計画で示された「Human in the loop / on the loop / in the lead」の考え方を参考に、自分たちのプロダクトにおいて「どこまでをAIに自律実行させ、どのポイントで人が監視・承認するのか」という信頼境界を設計段階で決めておくことが有効です。これにより、開発スピードを維持しながら、予期せぬ挙動や情報漏洩のリスクを抑えた運用体制を整えることができます。

まとめ

「デジタルスキル標準 ver.2.0」と「人工知能基本計画」は、AIを基軸とした社会変革(AX)に向けた国の方向性と、現場で求められる役割の具体像を示しています。

  • データマネジメントの確立:AIの活用を支えるため、データスチュワード、データエンジニア、データアーキテクトの3ロールが新設されました。
  • 役割の明確化:プロダクトマネージャーやコミュニケーションデザイナーなど、現代の開発現場に即したロールが体系化されました。
  • 人とAIの協働体制:エージェント型AIの普及を見据え、人が適切な判断責任を維持するガバナンスの重要性が提示されています。

自社のチーム構成や技術スタックの棚卸しを行う際に、これらの枠組みを共通言語として取り入れてみてはいかがでしょうか。


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参考資料:

執筆・編集: vonxai編集部

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