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AI導入に冷や水? 社員は不安、管理職は期待… Slackの最新調査が職場におけるAIの現状を浮き彫りに
生成AIブームから約1年。多くの企業がAI導入に注力し、社員もAIスキル習得に意欲的です。しかし、職場におけるAI活用には漠然とした不安やトレーニング不足といった課題も存在し、導入ペースに陰りが見え始めていることが、ビジネスコミュニケーションプラットフォームを提供するSlackの最新調査「The Fall 2024 Workforce Index」で明らかになりました。
例えば、ある製造業ではAIによる需要予測システムを導入したものの、精度が期待値を下回り、現場の混乱を招いたというケースも。また、AIツール導入によってデータ入力作業が増加し、社員の負担が増えたという声も聞かれます。
この調査は、Slackが2024年8月2日から8月30日にかけて、日本を含む世界15カ国17,372人のデスクワーカーを対象に実施したものです。本記事では、この調査結果を通して、AI導入の現状と課題、そして企業が取るべき対策について解説します。
AI導入を阻む3つの壁
Slackの調査は、AI導入を阻害する3つの主要な要因を明らかにしました。
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AI利用に関する規範の曖昧さ: 職場でAIを使うことに対する漠然とした不安や抵抗感が、AI活用の広がりを阻害しています。回答者の約半数(48%)が、メール作成やブレインストーミング、データ分析、コーディングといった一般的な業務でAIを使ったことを上司に伝えることに抵抗を感じると回答しています。グローバルでは「AIを使うのは不正行為のようだ」「無能だと思われるのが怖い」「怠けていると思われるのが怖い」といった声が挙がりました。
日本では、「社内でAIの使用が推奨されていない、または許可されていない」という回答が最も多く、次いで「AIを使うのは不正行為のようだ」「無能だと思われるのが怖い」という回答が続いています。文化的な背景の違いが影響していると考えられます。
こうした不安は、AI活用の透明性を損ない、生産性向上を妨げる可能性があります。オープンなコミュニケーションを促進し、AI利用に関する明確なガイドラインを策定することが重要です。
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AIへの過剰な期待と現実のギャップ: AIは万能ではありません。AIによって生まれた時間をどのように使いたいかという問いに対し、グローバルでは「仕事以外の活動」がトップでしたが、実際にどのように時間を活用しているかという問いに対しては「管理業務」が最も多く、AIが必ずしも期待通りの効果をもたらすわけではないという現実が浮き彫りになりました。
日本でも、AIによって生まれた時間を「仕事以外の活動」に充てたいと考えている人の割合が高く、一方で実際には「管理業務」に充てている人の割合も高いことが分かります。
このギャップは、AI導入に対するモチベーションの低下や、AI活用の効果に対する疑問につながる可能性があります。AIの得意・不得意を理解し、適切な業務に活用することが重要です。
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AIトレーニングの不足: AIトレーニングを受けた人は、AIを使用していない人に比べて生産性が 最大19倍向上するというデータ があるにもかかわらず、AIトレーニングの不足は深刻な問題です。回答者のわずか7%しか自分はAIエキスパートだと思っていないと回答しており、大多数(61%)はAIの使い方を学ぶのに5時間未満しか費やしておらず、30%はAIトレーニングを全く受けていないと回答しています。AIを効果的に活用するためには、適切なトレーニングが不可欠です。企業は、社員のAIスキル向上に投資し、AIリテラシーを高めるための研修プログラムなどを提供する必要があります。
AI導入を成功させるための3つのヒント
Slackの調査結果を踏まえ、企業がAI導入を成功させるための3つのヒントを提示します。
- 明確なガイドラインとトレーニングの提供(PET:Permission, Education, Training): AI利用に関する許可、教育、トレーニングを包括的に提供する「PET」戦略が成功の鍵となります。トップダウン型のトレーニングだけでなく、社員同士がAIの活用事例を共有するピアツーピアの学習機会も設けることで、AIリテラシーの向上と不安の解消を促進し、よりスムーズなAI導入を実現できるでしょう。短時間でも効果的なマイクロラーニングも有効な手段です。
- 生産性の再定義: AIは「より多くの仕事をこなす」ためだけでなく、「質の高い仕事」や「創造的な仕事」を生み出すためのツールであると再定義することが重要です。社員がAIを活用して、より付加価値の高い業務に集中できる環境を整備することで、真の生産性向上を達成できます。
- Z世代・ミレニアル世代のAI活用促進: Z世代やミレニアル世代は、AIスキルに長け、新しい技術への適応力も高い傾向があります。彼らをAI導入の旗手として育成し、他の社員への指導やメンターシップを担ってもらうことで、組織全体のAI活用を加速させることができます。
Generation | Beginner | Novice | Intermediate | Advanced | Expert |
---|---|---|---|---|---|
Boomers (60+) | 6% | 26% | 44% | 21% | 3% |
GenX (44-59) | 4% | 18% | 42% | 30% | 6% |
Millenial (28-43) | 3% | 12% | 40% | 36% | 8% |
GenZ (18-27) | 2% | 14% | 42% | 34% | 7% |
日本では、新卒の方が平均的な社員よりもAIスキルが高いと考えている人はグローバルより低い水準ですが、依然として高い水準にあります。企業は、若手社員のAIスキルを積極的に活用し、組織全体のAIリテラシー向上に繋げるべきです。
AI導入の未来:3つの予測
Slackの調査は、AI導入の未来に関して以下の3つの予測を提示しています。
- 予測1: AIネイティブ世代が職場でのAI活用を牽引する
- 予測2: AIネイティブ世代は、AIによる人間関係の希薄化リスクに直面する
- 予測3: 求職者はAI活用に積極的な企業を志望するようになる
これらの予測は、企業がAI導入戦略を策定する上で重要な示唆を与えています。AIはビジネスの未来を大きく変える可能性を秘めていますが、そのメリットを最大限に活かすためには、人材育成や組織文化の変革など、多角的な視点からのアプローチが不可欠です。
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参考資料: