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AIとデジタル化が労働市場を再編:世界経済フォーラム「Future of Jobs Report 2025」が示す未来
2025年1月、世界経済フォーラム(WEF)は「Future of Jobs Report 2025」を発表しました。 本レポートは、今後5年間(2025〜2030年)の世界的な労働市場の展望をまとめたもので、世界中の主要企業1,000社以上(日本企業を含む)の経営幹部、人事責任者、戦略責任者への詳細なアンケート調査に基づき分析されています。特に、技術革新、中でも生成AIの急速な普及が、産業構造、雇用、そして求められるスキルに大きな変化をもたらすと予測している点が注目されます。
労働市場に大きな影響を与える5つのマクロトレンド
本レポートでは、以下の5つのマクロトレンドが、2030年までに労働市場を大きく変えると指摘しています。
1. テクノロジーの進化:デジタル化とAIの進展
デジタルアクセスの拡大、AI・情報処理技術の進化、ロボティクスや自動化の普及は、今後も労働市場に大きな影響を与え続けるでしょう。特にAIは、調査対象となった企業の 60% がビジネスの変革を期待する最大のトレンドと位置付けており、その影響は雇用創出と喪失の両面で最大規模になると予測されています。
2. 経済の不確実性:生活費の高騰と成長鈍化
世界的なインフレは鈍化傾向にあるものの、生活費の高騰(調査対象企業の50%が影響を予測)や経済成長の鈍化(同42%)は、今後も企業活動に影響を与え続けると見られます。
3. グリーン・トランジション:気候変動対策の加速
気候変動対策への意識の高まりは、労働市場における3番目に大きな変革要因です。脱炭素化への投資拡大(47%)、気候変動への適応(41%) は、再生可能エネルギーエンジニアや環境エンジニアなどの需要を押し上げると予測されています。
4. 人口動態の変化:先進国の高齢化と新興国の若年労働力増加
先進国における高齢化と労働人口の減少(40%)、新興国における労働人口の増加(24%) は、医療や教育関連職の需要拡大など、労働市場に大きな影響を与えると予測されます。
5. ジオエコノミックな分断:地政学的緊張と保護主義
地政学的緊張の高まり(34%) や保護主義的な政策(貿易や投資に対する規制強化:23%) は、サプライチェーンの再編やセキュリティ関連職種の需要拡大をもたらし、企業のビジネスモデル変革を促すと予測されています。
【参考】マクロトレンドによる企業変革
マクロトレンド | 企業の割合(%) |
---|---|
デジタルアクセスの拡大 | 60 |
生活費の上昇、物価高騰 | 50 |
気候変動対策への取り組み強化 | 47 |
労働問題や社会問題への関心の高まり | 46 |
成長鈍化 | 42 |
気候変動への適応 | 41 |
高齢化と労働力人口の減少 | 40 |
地政学的な分断の深刻化 | 34 |
政府の補助金や産業政策の拡大 | 21 |
グローバルな貿易や投資に対する規制強化 | 23 |
若年労働力人口の増加 | 24 |
独占禁止法や競争法に関する規制の強化 | 17 |
2030年までに7%の雇用純増、しかし求められるスキルは大きく変化
これらのマクロトレンドによって、2030年までに現在の全雇用の22%に相当する仕事の創出と喪失が生じると予測されています。具体的には、現在の雇用の14%に相当する1億7,000万人の雇用が創出される一方、8%に相当する9,200万人の雇用が喪失し、結果として7%(7,800万人)の雇用純増が見込まれます。
今後5年で最も成長する/衰退する職種
本レポートでは、今後5年間で最も急速に成長する職種と衰退する職種を予測しています。
成長する職種
衰退する職種
これらの結果から、テクノロジー関連職種の需要が大きく伸びる一方、事務・秘書系職種はデジタル化やAIの影響を受け、需要が減少することが予想されます。また、環境エンジニアや電気自動車・自動運転車スペシャリストなど、グリーン・トランジションに関連する職種の成長も期待されます。
求められるスキルの変化:39%のスキルが時代遅れになる可能性
労働市場の変化に伴い、労働者に求められるスキルセットも大きく変わります。レポートでは、2030年までに労働者の既存スキルセットの39%が変革または時代遅れになると予測しています。これは2023年版レポートの44%からは低下しているものの、依然として高い水準です。企業は継続的な学習、リスキリング、アップスキリングのプログラムを重視し、将来のスキル要件をより良く予測し、管理できるようになっていることが示唆されています。
特に需要が高まるスキルとして、AIとビッグデータ、ネットワークとサイバーセキュリティ、テクノロジーリテラシーといった技術関連スキルが挙げられています。また、創造的思考力、適応力、リーダーシップと社会的影響力、生涯学習への意欲といった人間中心のスキルも重要性を増すと予測されます。
企業にとって最大の障壁は「スキルギャップ」
労働市場の変革に対応する上で、企業が直面する最大の障壁はスキルギャップです。調査対象となった企業の 63% がスキルギャップを主要な障壁として認識しており、特に、人材獲得競争が激化する中で、求められるスキルを持つ人材の確保が課題となっています。
企業の対応:リスキリングとアップスキリングが最優先
これらの課題に対応するため、企業の85%が従業員のリスキリングとアップスキリングを最優先の戦略として掲げています。また、 70% の企業が新たなスキルを持つ人材の採用を、 63% の企業が新技術による業務の補完・強化を計画しています。
結論:変化に適応し、未来を築くために
「Future of Jobs Report 2025」は、今後の労働市場が、技術革新、経済の不確実性、グリーン・トランジション、人口動態の変化、ジオエコノミックな分断といった複合的な要因によって大きく変革されることを示唆しています。
特に、生成AIの影響が初めて明確に示され、グラフィックデザイナーや法務秘書といった職種が今後最も急速に衰退する職種の上位にランクインしている点は注目に値します。また、企業の85%が従業員のスキルアップを重視しているにもかかわらず、63%がスキルギャップを事業変革の最大の障壁として認識しており、スキルギャップの深刻化が浮き彫りとなっています。さらに、企業の83%が多様性、公平性、包括性 (DEI) の取り組みを実施しており、多様な人材プールの活用が人材不足解消の重要な戦略と認識されています。
企業は、この変化に対応するために、従業員のリスキリングとアップスキリングに投資し、新たなスキルを持つ人材を採用し、テクノロジーを活用して業務を補完・強化する必要があります。
本レポートは、労働市場の未来を形作る重要なトレンドを浮き彫りにし、企業、政府、教育機関、そして個人が、これらの変化に備え、適応するための貴重な指針を提供するものです。AIなどの技術革新がもたらす恩恵を最大限に活かし、誰一人取り残さない、より良い労働市場の未来を築くためには、産官学民が連携し、戦略的な人材育成と労働市場政策を推進していくことが不可欠です。
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参考資料: