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生成AIは仕事の何を変えるのか?Microsoftの大規模調査が示す、職業への影響と未来

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生成AIの急速な普及は、私たちの働き方に大きな変化をもたらそうとしています。多くのビジネスパーソンが、AIが自身のキャリアや業務にどのような影響を与えるのか、大きな関心を寄せています。これまで専門家の予測というかたちで語られることの多かったこの問いに対し、実際の利用データに基づいた具体的な分析結果が示されました。

本記事では、Microsoft ResearchとMicrosoftによる論文「 Working with AI: Measuring the Occupational Implications of Generative AI 」(2025年7月)に基づき、Microsoft Copilotの実際の利用データから明らかになった生成AIの職業への影響を、図表を交えながら分かりやすく解説します。

調査の概要:Copilotの利用データから見えるAI活用の実態

この研究は、2024年の9ヶ月間にわたる、米国のMicrosoft CopilotユーザーとAI間の20万件の匿名化された会話データを分析したものです。目的は、人々がどのような仕事の活動でAIの支援を求め、AIが実際にどのような活動を遂行しているかを特定し、それらが各職業にどのような影響を与えるかを測定することにあります。

分析には、米国の職業情報データベースであるO*NETの職業階層が用いられ、具体的なタスクレベルでAIの利用実態がマッピングされました。

人々がAIに求める支援と、AIが担う役割

調査からは、ユーザーがAIに何を求めているのか、そしてAIがその中でどのような役割を果たしているのか、興味深い実態が浮かび上がりました。

ユーザーがAIに求めること:情報収集と執筆が中心

ユーザーがCopilotに支援を求めるタスクは、大きく3つのカテゴリーに分類されました。

  1. 情報収集: 様々な情報源からの情報収集、商品やサービスに関する情報取得など。
  2. 執筆・編集・コンテンツ開発: 文章の作成、編集、ニュースや芸術コンテンツの開発など。
  3. 他者とのコミュニケーション: 顧客への情報提供、技術的な詳細や規則の説明など。

図表1(左側)が示すように、「様々な情報源からの情報収集」が最も一般的な利用目的であり、人々がAIを高度な検索エンジンのように活用している実態がうかがえます。

AIの役割:コーチ、アドバイザーとしてのAI

一方で、AIが会話の中で実行しているタスク(AIアクション)は、ユーザーの目的(ユーザゴール)とは少し異なる様相を見せます。AIは、ユーザーに応答し、情報を提供し、支援するといった「サービス」の役割を担っています。

AIが最も頻繁に行うタスクは以下の通りです。

  1. 情報収集と報告: 情報の収集、情報資料の準備、コンテンツ開発。
  2. 情報の説明: 調査結果の提示、技術的な詳細や規則の説明。
  3. ユーザーとのコミュニケーション: 顧客の問題への対応、支援の提供、助言。

図表1(右側)を見ると、AIは「顧客の問題に対応する」「一般の人々に情報や支援を提供する」といった、人間をサポートする役割を多く担っていることが分かります。研究では、実に40%の会話でユーザーの目的とAIの行動が異なっており、AIが人間のアシスタントやコーチ、アドバイザーとして機能している非対称な関係性が示唆されています。

図表1: 主要なIWA(中間的職務活動)の頻度

主要なIWA(中間的職務活動)の頻度

AIはどの職業に最も大きな影響を与えるのか?

本研究の核心は、AIの利用実態から、どの職業が最も影響を受けるかを「AI適用性スコア」として算出した点にあります。このスコアは、AIがその職業に関連する業務をどの程度カバーし、かつそれをどのくらい成功裏に完了できるかを示す指標です。

「AI適用性スコア」が示す影響の大きい職業トップ10

スコアが高い、つまりAIによる影響が大きいと予測される職業の上位には、知識労働や高度なコミュニケーション能力を要する職種が並びました。

特に 「翻訳者・通訳者」は98% という極めて高いスコアを示し、AIがその業務の大部分をカバーできる可能性が示唆されています。その他にも、「歴史家」「作家」「カスタマーサービス担当者」などが上位にランクインしています。

図表2: AI適用性スコアが最も高い職種トップ10

職種名(略称)カバレッジ完了率スコープスコア雇用者数
翻訳者・通訳者0.980.880.570.4951,560
歴史家0.910.850.560.483,040
客室乗務員0.800.880.620.4720,190
サービス営業担当者0.840.900.570.461,142,020
作家・著者0.850.840.600.4549,450
カスタマーサービス担当者0.720.900.590.442,858,710
CNCツールプログラマー0.900.870.530.4428,030
電話オペレーター0.800.860.570.424,600
チケット販売員・旅行事務員0.710.900.560.41119,270
放送アナウンサー・ラジオDJ0.740.840.600.4125,070

注:指標はユーザー目標とAIアクションスコアの平均値として報告されています。

影響が小さい職業:身体的作業が中心の職種

対照的に、AI適用性スコアが低い職業は、主に物理的な作業や手作業を伴うものでした。例えば、「採血専門技師(Phlebotomists)」「看護助手」「有害物質除去作業員」といった職業が挙げられます。

これらの職業は、AIチャットボットの現在の能力では代替が難しい身体的なタスクを多く含むため、スコアが低くなっています。

図表3: AI適用性スコアが最も低い職種ワースト10

職種名(略称)カバレッジ完了率スコープスコア雇用者数
採血専門技師0.060.950.290.03137,080
看護助手0.070.850.340.031,351,760
有害物質除去作業員0.040.950.350.0349,960
補助員(塗装工、左官工など)0.040.960.380.037,700
エンバーマー(遺体衛生保全士)0.070.550.220.033,380
プラント・システムオペレーター(その他)0.050.930.380.0315,370
口腔外科医0.050.890.340.034,160
自動車ガラス設置・修理工0.040.930.340.0316,890
船舶機関士0.050.920.390.038,860
タイヤ修理・交換工0.040.950.350.02101,520

注:指標はユーザー目標とAIアクションスコアの平均値として報告されています。

職業グループで見るAIの影響度

さらに、職業を22の主要なグループ(SOC major groups)に分類して分析したところ、AI適用性スコアが最も高かったのは 「営業および関連職」 で、次いで 「コンピュータ・数学関連職」「事務・管理サポート職」 となりました。これらは米国において非常に多くの雇用を抱える職業グループであり、AIの影響が広範囲に及ぶ可能性を示しています。

また、「コミュニティ・社会サービス」「教育・図書館」といった、コミュニケーションが重要な要素となるグループも高いスコアを示しました。一方で、「医療サポート」「農業・漁業・林業」「建設・採掘」など、身体的労働が中心のグループはスコアが低い結果となっています。

図表4: AI適用性スコアでソートしたSOC大分類グループ(一部抜粋)

大分類グループカバレッジ完了率スコープスコア雇用者数
営業および関連職0.560.890.510.3213,266,370
コンピュータ・数学関連職0.640.860.480.305,177,390
事務・管理サポート職0.560.890.490.2918,163,760
コミュニティ・社会サービス0.510.880.440.252,216,930
芸術、デザイン、エンターテイメント、スポーツ、メディア0.590.800.490.252,039,830
ビジネス・財務運用0.490.890.470.2410,087,850
教育・図書館0.460.890.460.238,328,920
建築・工学0.490.840.460.222,523,090
パーソナルケア・サービス0.390.900.450.202,959,620
生命科学、物理科学、社会科学0.390.880.460.201,381,930

注:指標はユーザー目標とAIアクションスコアの平均値として報告されています。

まとめ:生成AIは「知識労働」を再定義する

今回のMicrosoftによる調査は、生成AIが単なる予測や期待を超え、既に我々の働き方に具体的な影響を与え始めていることを、実際のデータをもって示しました。特に、情報収集、執筆、コミュニケーションといった「知識労働」の中核をなすタスクにおいて、AIは強力なアシスタントとして機能しています。

重要なのは、AIが単純にタスクを「自動化」するだけでなく、人間の能力を「拡張」する協働者としての側面が強いという点です。AIがコーチやアドバイザーのように振る舞うことで、私たちはより複雑で創造的な業務に集中できるようになるかもしれません。

もちろん、この研究はAIの一側面を捉えたものに過ぎません。しかし、AIの進化が今後も加速していく中で、各職業に求められるスキルや役割がどのように変化していくのか。その未来を考える上で、本研究は非常に価値のある示唆を与えてくれると言えるでしょう。

Author: vonxai編集部

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