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ハイブリッドワークで働く開発者の新しい勤務リズム「トリプルピーク」とは?

リモートワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワーク。場所や時間にとらわれない柔軟な働き方として注目されていますが、特にソフトウェア開発者においては、仕事とプライベートの境界線が曖昧になり、かえって長時間労働やストレス増加を招いてしまう懸念もあります。
本記事では、MicrosoftのJavier Hernandez氏らによる研究論文「Triple Peak Day: Work Rhythms of Software Developers in Hybrid Work」(2024年)に基づき、ハイブリッドワークにおけるソフトウェア開発者の勤務リズム、ストレス、生産性の関係性について解説します。
ソフトウェア開発者の勤務リズム - 新たな「トリプルピーク」とは?
これまで、ソフトウェア開発者の勤務リズムは、午前と午後に活動のピークがある「ダブルピーク」パターンを示すと考えられてきました。しかし、Hernandez氏らの研究では、これに加えて夜間(21時頃)にも活動のピークが見られる「トリプルピーク」現象が確認されました。
従来のダブルピークとの違い
従来のダブルピークは、一般的な就業時間(9時-17時)に合わせた活動パターンを反映しています。一方、トリプルピークは、ハイブリッドワークによって、より柔軟な働き方が可能になった結果、個人の生活リズムや業務の状況に合わせて、勤務時間が変化していることを示唆しています。つまり、従来の9時-17時という固定された時間帯ではなく、個人が自身の状況に合わせて業務時間を分散させている可能性を示しています。
勤務形態別(リモート/オンサイト/ハイブリッド)で見る勤務リズム
本研究では、勤務形態(リモート、オンサイト、ハイブリッド)によって、勤務リズムに違いが見られることが報告されています。
リモートワークの場合
リモートワークでは、比較的、従来のダブルピークに近いパターンを示すものの、オンサイトに比べ、夜間の活動(20時以降)が、多くなる傾向がみられました。これは、通勤時間の削減や、自宅での作業環境の自由度などが影響していると考えられます。
オンサイトワークの場合
オンサイトワークでも、従来のダブルピークに近いパターンを示すものの、3つの勤務形態の中で、最も、その傾向が顕著に表れていました。これは、オフィス環境が、ある程度規則正しい勤務リズムを促す効果を持つことを示唆しています。
ハイブリッドワークの場合
ハイブリッドワークでは、午前と午後のピークに加えて、夜間にも明確なピークが見られ、トリプルピークのパターンを示す割合が最も高くなりました。また、1日を通して、活動の波が頻繁に上下する傾向(研究内では”ローラーコースター”リズムと表現)も確認されました。これは、オフィスと自宅、それぞれの作業環境を組み合わせることで、より柔軟な働き方が可能になる一方、勤務時間とプライベート時間の区別がつきにくくなる可能性を示唆しています。
勤務形態別の平均コンピュータアクティビティ
ストレスが勤務リズムに与える影響とは?
Hernandez氏らの研究では、コンピュータアクティビティと、自己申告によるストレスレベルとの間に、正の相関関係があることが示されました。つまり、コンピュータアクティビティが多い日ほど、ストレスレベルも高くなる傾向があるということです。
1日のコンピュータアクティビティの分布
コンピュータアクティビティとストレスレベルの関係性
特に
- コーディング
- 会議
- ドキュメントの読み書
- デバッグ作業
といった活動は、ストレスレベルの上昇と、より強く関連していることが分かりました。これは、これらの活動が、高い集中力や問題解決能力を必要とするためと考えられます。 また、オンサイトやハイブリッドの日に、夜遅くまで作業をすると、ストレスレベルが高くなることも示唆されています。これは、仕事とプライベートの切り替えがうまくいかず、十分な休息が取れていない可能性を示しています。
生産性を最大化する勤務リズムとは?
本研究では、コンピュータアクティビティと、自己申告による生産性レベルとの間には、興味深い関係性があることが示されました。
コンピュータアクティビティと生産性レベルの関係性
コンピュータアクティビティが少ない日は、生産性も低い傾向がありますが、コンピュータアクティビティが増えるにつれて、生産性も向上します。しかし、コンピュータアクティビティが約6時間を超えると、生産性は頭打ちになり、むしろ低下する傾向が見られました。
生産性向上のカギは「適度な」活動時間
この結果は、長時間労働が必ずしも生産性向上に繋がらないことを示唆しています。 生産性を最大化するためには、適度な休憩を取りながら、集中して業務に取り組むことが重要であると考えられます。
特に、コーディングは生産性とより強く関連していることが分かりました。これは、コーディングがソフトウェア開発者にとって主要な業務であり、成果に直結しやすい活動であるためと考えられます。
ストレスと生産性の関係性 - バランスが重要
では、ストレスと生産性には、どのような関係があるのでしょうか? 本研究データからは、この2つには、逆U字型の関係がみられました。
ストレスと生産性の関係性
つまり、適度なストレスは生産性を向上させるが、過度なストレスや、ストレスが全くない状態は、生産性を低下させてしまう可能性があるということです。これは、 ヤーキーズ・ドットソンの法則 (Yerkes-Dodson’s law)とも一致する結果です。適度なストレスは、集中力やモチベーションを高め、パフォーマンスを向上させる効果がありますが、過度なストレスは、心身の健康を害し、作業効率を低下させる可能性があります。
まとめ - ハイブリッドワークの課題と今後の展望
Hernandez氏らの研究は、ハイブリッドワークにおけるソフトウェア開発者の勤務リズム、ストレス、生産性の関係性について、新たな知見を提供しています。「トリプルピーク」という新たな勤務リズムの発見は、ハイブリッドワークにおける働き方を考える上で非常に興味深く、従業員のウェルビーイング(幸福度)と生産性向上の両立を目指す上で重要な示唆を与えてくれます。
今後は、
- 個人の特性や業務内容に合わせた、より柔軟な働き方の推進: 画一的な労働時間管理ではなく、勤務時間の自己裁量権を拡大するなど、個々の状況に応じた柔軟な働き方を支援する制度の導入が求められます。
- 従業員サポート体制の構築: ストレスマネジメント研修の実施や、相談窓口の設置など、従業員のメンタルヘルスをサポートする体制を整備することが重要です。
- 業務効率化と、過度なストレスの早期発見: タスク管理ツールやコミュニケーションツールの活用によって、業務の可視化と効率化を進め、長時間労働や過度なストレスの兆候を早期に発見できる仕組み作りが必要です。
- 「適度な活動時間」の推奨: 「6時間」というコンピュータアクティビティの時間を一つの目安として、集中的な労働と十分な休息のバランスを推奨していくことが重要です。
などが、企業や組織にとって、重要な課題となると考えられます。 ハイブリッドワークは、働き方の多様性を広げる可能性を秘めていますが、そのメリットを最大限に活かすためには、従業員の健康と生産性を両立させるための、きめ細やかなマネジメントが不可欠です。
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参考資料: