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ソフトウェア開発現場の「雑務」問題:その影響と解決策
開発生産性の向上は、多くの企業にとって重要な課題です。しかし、開発現場では、日々の作業の中に「Toil(雑務)」と呼ばれる、開発生産性を阻害する要因が潜んでいることがあります。
この問題は、オランダのアイントホーフェン工科大学の Kafoe Tom 氏が、ING社との共同研究として行った論文「Toil in Organizations That Run Production Services An ING Case Study」で詳しく調査されています。
Toilとは?
論文では、Googleが提唱するSite Reliability Engineering (SRE) の概念に基づき、「手作業、反復的、自動化可能、事後対応的、永続的な価値がなく、サービスの成長に伴って直線的に増加する運用タスク」をToilと定義しています。
簡単に言うと、本来自動化できるはずなのに手作業で行われている、面倒で時間のかかる作業のことです。
Toilがもたらす悪影響
Kafoe 氏の論文では、INGでのケーススタディを通して、Toilは企業と開発者双方に悪影響を及ぼすことが示されています。
企業への影響
- ビジネス価値を生み出すための時間が減少
- チームの開発速度低下
- イノベーションの停滞
- コスト増加、リソースの無駄遣い
- エラー増加、従業員の離職率増加
開発者への影響
- バーンアウト
- スキルアップの機会損失
- 仕事へのモチベーション低下
- 頻繁なコンテキストスイッチによる集中力低下
Toilを減らすメリット
Toilを減らすことは、企業と開発者双方に多くのメリットをもたらします。
企業のメリット
- ビジネス目標達成のための時間の増加
- 運用コスト削減
- チームの効率性向上、エラー率低下
- 顧客満足度向上、サービスの信頼性向上
開発者のメリット
- モチベーション向上、仕事への満足度向上
- スキルアップ、キャリアアップの機会増加
- バーンアウトのリスク軽減
- 集中力向上
Toil削減への取り組み
Kafoe 氏の論文では、Toil削減には意識的な取り組みが必要であるとされています。
- Toilの特定と分類: まずは、Toilに該当するタスクを特定し、分類することが重要です。
- 自動化: 自動化可能なToilは積極的に自動化しましょう。
- プロセス改善: Toilが発生する根本原因を突き止め、プロセス改善に取り組みましょう。
- 意識改革: チーム全体でToil削減の重要性を認識し、意識的にToilを減らす取り組みを進めましょう。
Toil削減の注意点
論文では、Toil削減にはいくつかの注意点も挙げられています。
- Toil削減には、エンジニアリングリソースが必要となります。そのため、Toil削減にかかるコストと削減によるメリットを比較検討し、費用対効果の高いToil削減を行う必要があります。
- 全てのToilを自動化できるわけではありません。Toilの中には、セキュリティやコンプライアンスに関わるタスクなど、人間による判断が必要なものも存在します。
- Toilの中には、短時間で完了できるものや、システム理解を深めるために役立つものも存在します。Toilを全て排除するのではなく、Toilの特性を見極め、適切な対応を行うことが重要です。
まとめ
Toilは、開発現場に潜む、生産性を阻害する見えない敵です。Kafoe 氏とING社の共同研究による論文は、Toilの理解を深め、その影響と解決策を提示することで、開発現場の生産性向上に貢献しています。PMやプロダクトオーナーは、論文の内容を参考に、Toil削減に取り組むことで、より効率的で創造的な開発環境を実現できるでしょう。
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参考資料: