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IT人材不足は解消された?2025年版白書が明かす採用・転職のリアル
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近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進やITサービスの需要拡大により、IT業界は急速な成長を遂げています。しかし、その一方で、IT人材の不足が深刻化しており、多くの企業が優秀なIT人材の確保に苦慮しています。経済産業省の調査によると、2030年には最大で79万人のIT人材が不足するという試算もあり、この問題は企業経営の大きな課題となっています。
本記事では、レバテック株式会社が発表した「レバテック IT人材白書 2025」に基づき、IT人材の採用・転職市場の最新動向を詳細に分析します。企業の人事担当者やIT業界への転職を検討している方々に向けて、現状を理解し、企業の採用戦略と課題、IT人材の転職・キャリア意識、そして生成AIがもたらす影響について深掘りしていきます。
激化するIT人材獲得競争 ― 企業が直面する課題と戦略
採用目標達成は困難 ― なぜIT人材は採用できないのか?
レバテックの調査によると、2024年度の採用目標人数を達成できた企業は、わずか45.0%にとどまっています。これは、過半数の企業が計画通りにIT人材を採用できていないことを意味します。
今年度の採用目標人数の達成状況
この厳しい状況の背景として、IT需要の急速な拡大に対して、IT人材の育成・供給が追いついていないことが挙げられます。
明暗分かれる採用戦略 ― 成功企業は何をしている?
採用目標を達成できない企業が多い一方で、採用人数を前年度より「増加した」と回答した企業も43.7%存在します。特に、自社開発企業やSlerでは、約半数が採用人数を増やしており、企業間で採用力の差が明確になっています。
採用人数の変動(昨年度比)
採用に成功している企業は、どのような戦略を取っているのでしょうか?「レバテック IT人材白書 2025」からは、いくつかの共通点が見えてきます。
まず、採用ターゲットの拡大です。従来の新卒や経験者採用だけでなく、未経験者や外国籍人材の採用にも積極的に取り組む企業が増えています。特に、未経験者採用については、「採用している」(39.4%)、「検討中」(31.2%)を合わせると、7割以上の企業が関心を示しており、潜在的なIT人材の発掘に力を入れていることがわかります。
エンジニア未経験者(新卒は除く)の採用状況
次に、採用チャネルの多様化です。従来の掲載型求人媒体だけでなく、スカウト型求人媒体やリファラル採用、SNSなどを活用し、多角的なアプローチで候補者に接触を試みています。特に、スカウト型求人媒体は、今年度新たに採用チャネルを増やした企業の47.6%が利用しており、企業が積極的に候補者を探す「攻めの採用」にシフトしていることが伺えます。
採用活動で利用されているチャネル(複数回答)
さらに、働き方改革や福利厚生の充実も、採用力強化に繋がっています。リモートワークの導入やフレックスタイム制、副業の許可など、柔軟な働き方を認めることで、優秀なIT人材にとって魅力的な職場環境を提供しています。
プロジェクトを推進できる人材が不足 ― 今、求められるのは「〇〇」なエンジニア
企業が最も注力している採用ポジションは、「リーダークラス」(38.0%)であり、特にSlerではその傾向が顕著です。これは、多くの企業がプロジェクトを推進できるリーダー層の人材不足に直面していることを示しています。
最も注力している採用ポジション
単に技術力が高いだけでなく、プロジェクトを成功に導くためには、コミュニケーション能力、問題解決能力、リーダーシップ、そして顧客や関係部署との折衝能力など、幅広いスキルが求められます。
エンジニア採用において重視している点(複数回答)
企業は、技術力だけでなく、これらのヒューマンスキルやビジネススキルを兼ね備えた「π型人材」を求めていると言えるでしょう。
生成AIは採用の救世主となるか? ― スキル要件と採用活動の変化
近年、急速に発展している生成AIは、IT人材の採用にも大きな影響を与えつつあります。企業は、生成AIの出現によって、エンジニアに求めるスキルが変化したと感じています。
生成AIの出現を受けて、より重要になったと感じるスキル(複数回答)
具体的には、「コミュニケーションスキル」(48.3%)、「プロンプトのスキル」(38.5%)、「ピープルマネジメントスキル」(29.8%)などが、より重要になったと感じるスキルとして挙げられています。これは、生成AIを使いこなすためのスキルだけでなく、生成AIを活用してチームをまとめ、プロジェクトを推進していく能力が、今後ますます重要になることを示唆しています。
新卒採用は? ― 学生の意識変化と企業の初任給戦略から今後を予測する
2025年卒の新卒エンジニア採用を実施している企業は、全体の65.4%です。
2025年卒の新卒エンジニア採用を実施しているか
企業が学生に求めるプログラミングスキルレベルは上昇傾向にあり、約6割の企業が選考要素にプログラミングを含んでいます。これは、学生時代にプログラミングを学ぶ機会が増えたこと、そして、企業が即戦力となる人材を求めていることを反映していると考えられます。
また、7割以上の企業が昨年度よりも初任給を引き上げており、新卒エンジニアの獲得競争が激化していることがわかります。優秀な学生ほど、より高い給与や魅力的なキャリアパスを提示する企業を選ぶ傾向にあるため、企業は初任給だけでなく、入社後の育成制度やキャリアパスの提示など、総合的な魅力度を高める必要があります。
IT人材の転職・キャリア意識 ― 変化する働き方と求められるスキル
なぜIT人材は転職を選ぶのか? ― 転職市場の動向とホンネ
現在、転職を検討しているIT人材は、約4割にのぼります。
現在の転職意欲について
転職を考える主な理由としては、「収入アップが見込めないため」(35.7%)、「スキルアップが見込めないため」(26.8%)が上位を占めています。
転職理由(複数回答)
これらの結果から、IT人材は、自身の成長と、それに見合った報酬が得られる環境を求めていることがわかります。企業は、IT人材の定着率を高めるために、スキルアップの機会を提供し、成果に応じた適切な評価と報酬制度を整備する必要があります。
給与だけじゃない? ― IT人材が仕事に求めるもの、働き方の変化
IT人材が仕事に対するモチベーションを維持する上で、最も大きな源泉は「給与」(49.8%)ですが、それ以外にも、「技術・スキル面の向上」(11.8%)、「プライベートの充実」(10.3%)、「職場の良好な人間関係」(6.9%)など、様々な要素がモチベーションに影響を与えていることがわかります。
業務における最も大きなモチベーションの源泉
また、リモートワークの実施状況については、「リモートワークしていない」と回答した人が最も多く(33.6%)、「週5日以上リモート」は21.2%にとどまっています。
現在のリモートワークの実施頻度
企業によっては、出社を求める動きが出ている一方で、IT人材の中には、リモートワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方を求める声も根強くあります。企業は、IT人材の多様な働き方ニーズに対応できるよう、制度や環境を整備していく必要があります。
エンジニアのキャリアパスはどう変わる? ― 多様化する選択肢
ITエンジニアのキャリアパスは、多様化しています。新卒でエンジニアになる人が約8割を占める一方で、他職種からエンジニアに転向する人も約2割存在します。
新卒でエンジニアになったか
また、管理職になりたいと考えているIT人材は少数派であり、技術を追求し続けたいというスペシャリスト志向のエンジニアが増えていることが示唆されます。
管理職になりたいか
さらに、フリーランスや副業といった働き方に関心を持つIT人材も増えており、個人の志向やライフスタイルに合わせて、多様なキャリアパスを選択できるようになってきています。
フリーランスとしての働き方に興味があるか
生成AIは脅威か? ― ITエンジニアの意識と、今後のキャリア
生成AIに対して、約7割のIT人材がポジティブなイメージを持っています。
生成AIに対するイメージ
これは、生成AIが業務を効率化し、新たな価値を生み出すツールとして期待されていることを示しています。一方で、生成AIによって自身の仕事が奪われるのではないかという不安を抱いているIT人材も少なくありません。
今後、ITエンジニアは、生成AIを使いこなすスキルを習得し、生成AIと協働しながら、より高度な業務や創造的な業務に注力していくことが求められるでしょう。
まとめ:IT人材獲得競争を勝ち抜くために ― 企業と求職者が取るべき戦略
レバテック IT人材白書 2025から、IT人材の採用・転職市場は、依然として売り手市場であり、企業間の獲得競争が激化していることが明らかになりました。企業は、従来の新卒・経験者採用だけでなく、未経験者や外国籍人材の採用、スカウト型求人媒体やリファラル採用の活用、柔軟な働き方の導入など、多様な採用手法を駆使し、優秀なIT人材の獲得を目指す必要があります。
また、生成AIの出現は、IT人材に求められるスキルや働き方に大きな変化をもたらす可能性があります。企業は、生成AIを活用した業務効率化や、生成AIを使いこなせる人材の育成に力を入れる必要があるでしょう。
一方、IT人材は、自身のキャリア形成において、市場動向を注視し、常にスキルアップを図ることが重要です。特に、生成AIに関するスキルや、コミュニケーション能力、問題解決能力などのヒューマンスキルは、今後ますます重要になると考えられます。
本記事で得られた情報を参考に、企業は採用戦略を見直し、IT人材は自身のキャリアプランを再考し、変化の激しいIT業界で活躍し続けるための戦略を立てていただきたいと思います。
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参考資料: