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開発速度2倍、コスト3割減、どう実現する?プラットフォームエンジニアリング2025年戦略
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近年、ビジネス環境の変化が加速する中、企業は迅速なアプリケーション開発と効率的なIT運用を実現することが求められています。そのための鍵となるのが、「プラットフォームエンジニアリング」です。多くの企業がプラットフォームエンジニアリングの導入を進めていますが、その成熟度には差があり、期待される効果を十分に得られていないケースも見られます。
本記事では、Enterprise Strategy Groupによる調査レポート「Building Competitive Edge With Platform Engineering: A Strategic Guide」(2024年11月)に基づき、プラットフォームエンジニアリングの現状、成功要因、ビジネスへの影響、そしてリーダー企業の特徴について解説します。2025年に向けてプラットフォーム戦略を最適化し、競争優位性を確立するためのヒントを提供します。
プラットフォームエンジニアリングとは?DevOpsとの違いと、その重要性
プラットフォームエンジニアリングとは、開発チームが迅速かつ効率的にアプリケーションを開発・提供できるようにするための、セルフサービス機能を持つ内部プラットフォームを構築・運用する取り組みのことです。
DevOpsを加速させるプラットフォームエンジニアリング
プラットフォームエンジニアリングは、DevOpsの原則をさらに発展させたものと位置づけられます。DevOpsは開発チームと運用チームの連携を強化し、アプリケーション開発の迅速化を目的としていますが、プラットフォームエンジニアリングは、その連携をさらに効率化する共通基盤を提供します。
具体的には、開発者がインフラ構築や運用管理といった煩雑な作業から解放され、本来注力すべきアプリケーション開発に集中できる環境を整えます。これにより、開発のスピードと品質が向上し、ビジネスの変化に迅速に対応できるようになります。
なぜ今、プラットフォームエンジニアリングが重要なのか?
現代のビジネス環境では、市場の変化や顧客のニーズに迅速に対応できるかどうかが、企業の競争力を大きく左右します。そのため、アプリケーション開発のスピードと柔軟性を高めることが、これまで以上に重要になっています。
プラットフォームエンジニアリングは、以下の点で、このニーズに応えることができます。
- 開発者の生産性向上: 開発者は、インフラの構築や運用管理といった作業から解放され、本来の業務であるアプリケーション開発に集中できるようになります。
- アプリケーションの品質向上: 標準化されたプラットフォーム上で開発を行うことで、アプリケーションの品質が均一化され、安定性が向上します。
- 運用コストの削減: インフラの自動化やセルフサービス化により、運用コストを削減できます。
- イノベーションの促進: 開発者は、新しい技術の実験や試行錯誤を容易に行えるようになり、イノベーションが生まれやすくなります。
企業におけるプラットフォームエンジニアリングの導入状況
Enterprise Strategy Groupの調査によると、多くの企業がプラットフォームエンジニアリングの導入を進めています。
プラットフォームエンジニアリングの導入状況
上図が示すように、55%の組織が既にプラットフォームエンジニアリングを導入しており、さらに90%が導入を拡大する計画です。しかしながら、プラットフォームエンジニアリングのツール、プロセス、文化を完全に統合している組織は、全体の27%に過ぎないことが分かります。
プラットフォームエンジニアリングを成功させる3つの要因
プラットフォームエンジニアリングを成功に導き、その効果を最大化するためには、以下の3つの要素が重要となります。
コラボレーション:開発者とプラットフォームチームの連携
プラットフォームチームとアプリケーション開発チームが定期的にコミュニケーションを取り、プラットフォームの要件について共通認識を持つことが重要です。調査では、プラットフォームチームの70%が、アプリケーション開発者と定期的にミーティングを実施していると回答しています。
プロダクト思考:プラットフォームを製品として扱う
プラットフォームを、開発者という「顧客」のための「製品」として捉え、継続的に改善していく必要があります。具体的には、明確なロードマップを作成し、機能や性能に関するフィードバックを収集し、それに基づいてプラットフォームを改善していくサイクルを確立します。調査では、44%の組織が、開発者向けプラットフォームを製品として扱っていると回答しています。
明確な成功指標:KPIを設定し、効果測定を行う
プラットフォームエンジニアリングの成功を測るためには、明確なKPI(重要業績評価指標)を設定し、その達成度を定期的に評価する必要があります。KPIの例としては、平均復旧時間(MTTR)、デプロイ頻度、変更のリードタイムなどが挙げられます。調査では、59%の組織が、定量的な成功指標を特定していると回答しています。
プラットフォームエンジニアリングの3つの成熟度レベル:Nascent, Established, Leading
Enterprise Strategy Groupの調査では、プラットフォームエンジニアリングの取り組み状況に基づき、企業の成熟度を以下の3つのレベルに分類しています。
- Nascent (初期段階): プラットフォームエンジニアリングの主要な要素(コラボレーション、プロダクト思考、明確な成功指標)のうち、いずれか1つを導入・実践している段階。
- Established (確立段階): プラットフォームエンジニアリングの主要な要素のうち、2つを導入・実践している段階。
- Leading (先進段階): プラットフォームエンジニアリングの主要な要素の全てを導入・実践している段階。
これらの成熟度レベルは、次のセクションで解説するビジネスへの影響と深く関連しています。
プラットフォームエンジニアリングがもたらすビジネスへの影響
成熟度が高いほど、ビジネス成果も向上する
Enterprise Strategy Groupの調査では、プラットフォームエンジニアリングの成熟度とビジネス成果の間には、明確な相関関係があることが示されています。
プラットフォームエンジニアリングの成熟度とビジネス成果の関連性
上図が示すように、プラットフォームエンジニアリングの成熟度が高い「Leading」な組織は、「Nascent」な組織と比較して、IT運用効率、アプリケーションの信頼性とパフォーマンス、開発者の満足度、組織のイノベーションなど、あらゆる面で優れた成果を上げています。
具体的なメリット:効率性、パフォーマンス、俊敏性、イノベーション
プラットフォームエンジニアリングは、以下のような具体的なメリットをもたらします。
- 効率性の向上: 開発者は、インフラの構築や運用管理といった作業から解放され、より多くの時間をアプリケーション開発に費やすことができるようになります。
- パフォーマンスの向上: 標準化されたプラットフォーム上で開発を行うことで、アプリケーションの品質が均一化され、パフォーマンスが向上します。
- 俊敏性の向上: 新しい技術の導入や、市場の変化への対応が迅速に行えるようになります。
- イノベーションの促進: 開発者は、新しい技術の実験や試行錯誤を容易に行えるようになり、イノベーションが生まれやすくなります。
プラットフォームエンジニアリングのリーダー企業の特徴と実践
Enterprise Strategy Groupの調査では、プラットフォームエンジニアリングのリーダー企業は、以下のような特徴を持っていることが明らかになっています。
リーダー企業のプラットフォームの自己評価
上図が示すように、リーダー企業は、セキュリティの自動化、コードテストの自動化などにおいて、自社のプラットフォームを「マーケットリーダー」であると評価している割合が高くなっています。
また、リーダー企業は、コードのリリースやデプロイの頻度、問題解決の速度(MTTR)においても、他の企業を大きく上回っています。
リーダー企業のリードタイム
上図が示すように、リーダー企業は、コード変更を本番環境にリリースするまでの時間を大幅に短縮しています。
リーダー企業のデプロイ頻度
上図が示すように、リーダー企業は、1日に複数回のコードデプロイを頻繁に行っています。
リーダー企業の問題解決速度(MTTR)
上図が示すように、リーダー企業は、障害発生時の復旧時間を大幅に短縮しています。
プラットフォームエンジニアリングを成功させるための主要な要件
開発者が求めるプラットフォームとは?
Enterprise Strategy Groupの調査では、開発者がプラットフォームに求めるものとして、以下のような点が挙げられています。
開発者がプラットフォームに求めるもの
上図が示すように、開発者は、自動化されたテストとデプロイ、容易なコラボレーションとコード共有、自動化されたセキュリティとコンプライアンスなどを重視しています。
プラットフォームに不可欠なコンポーネント
プラットフォームには、以下のようなコンポーネントが不可欠です。
プラットフォームに不可欠なコンポーネント
上図が示すように、AI/MLサービスとCI/CDツールは、プラットフォームに不可欠なコンポーネントと見なされています。
まとめ:プラットフォームエンジニアリングで競争優位性を確立し、AI/ML活用で未来を拓く
プラットフォームエンジニアリングは、開発速度の向上、コスト削減、ビジネスの俊敏性向上、そしてイノベーションの促進を実現するための重要な戦略です。Enterprise Strategy Groupの調査レポートでは、プラットフォームエンジニアリングの成熟度が高い企業ほど、より大きなビジネス成果を上げていることが明らかになりました。
今後は、AI/ML技術の活用が、プラットフォームエンジニアリングをさらに進化させる鍵となります。
プラットフォームエンジニアリングにおけるAI/MLの重要性
プラットフォームエンジニアリングの加速要因としてのAI/ML
これらの図が示すように、多くの組織が、AI/MLをプラットフォームエンジニアリングにおいて「重要」または「非常に重要」と位置づけています。
プラットフォームエンジニアリングの導入は、一朝一夕にできるものではありません。しかし、本記事で紹介した成功要因やリーダー企業の実践を参考に、自社の状況に合わせて段階的に取り組みを進めることで、必ずやビジネスの成長に貢献するはずです。2025年、そしてその先を見据え、今こそプラットフォームエンジニアリングに取り組み、競争優位性を確立しましょう。
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参考資料: