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リモートワークの成果、実は「外向性」で変わる?生産性と心を軽くするコミュニケーション術とは

リモートワークが私たちの働き方の選択肢として定着しつつある今、通勤時間がなくなったり、自分のペースで仕事ができたりと、良い面もたくさんありますよね。でもその一方で、「オフィスにいた頃みたいに、気軽に雑談できなくなったなあ」とか、「オンライン会議ばっかりで、なんだか疲れちゃう…」なんて感じている人も多いのではないでしょうか。もしかすると、こうした課題の感じ方や、リモートワークでの成果の出やすさは、個々人の性格、特に「外向性の度合い」によって異なるのかもしれません。
本記事では、チューリッヒ大学、ブリティッシュコロンビア大学の研究者チームが発表した論文「Remote Workplace Interactions and Extraversion: A Field Study on Wellbeing and Productivity Among Knowledge Workers」(2025年)に基づき、リモート環境におけるコミュニケーションが、知識労働者の生産性とウェルビーイングにどのような影響を与えるのか、そして個人の「外向性」がその効果をどう左右するのかを、研究結果を交えながら詳しく解説していきます。
リモートワークにおけるコミュニケーションの現実:「タスク中心」が加速し、「雑談」と「質」が変化
この興味深い研究は、北米およびヨーロッパの12企業に所属する15チーム、60名の知識労働者を対象に、2~3ヶ月間にわたって実施されました。参加者はソフトウェア開発、保険、営業、建設、ビジネスアナリティクスなど多様な業種に従事しており、パンデミックを機にリモートワークまたはハイブリッドワークへ移行した人々です。
リモートワークへの移行によってチーム内のコミュニケーションにはどのような変化が生じたのでしょうか。本研究では、コミュニケーションの「量」と「質」の両面からその実態に迫っています。
パンデミックで変わったコミュニケーション:会議漬けとタスク中心へのシフト
多くの知識労働者が報告したのは、コミュニケーション時間、特に会議時間の増加でした。以前はデスクで簡単に済ませられた質問や情報共有も、リモートではスケジュールされたオンライン会議に頼らざるを得なくなりました。ある参加者は、「以前は週に一度だったスクラムミーティングが毎日になり、内容もよりインタラクティブになった」と語っています。
そして、このような状況の中、リモートワークでのコミュニケーションは、より「タスク指向(仕事中心)」になる傾向が見られました。研究に参加した知識労働者の日々のインタラクションを分析したところ、チームメンバーとの会話も、上司との会話も、その多くが仕事に関連する内容に集中していました。 下の図1は、インタラクションのタイプを「関係指向(Relational)」から「タスク指向(Task-Oriented)」の5段階で評価した結果の分布を示しています。グラフの右側に分布が偏っていることから、仕事に関する話題が中心であったことがうかがえます。
図1:インタラクションのタイプ別分布
チームとの会話も上司との会話も、総じてタスク指向(グラフ右側、値が大きいほどタスク指向)に偏っていることが分かります。
そして、このタスク中心の傾向は、リモートワーク移行によってより顕著になったと参加者が感じている点が重要です。論文のインタビューでは、「以前はもっと気軽な雑談や個人的な話をする機会があったが、リモートになってからはコミュニケーションがほぼ仕事の話に限られるようになった」といった声が多数寄せられています。例えば、ある参加者は「オフィスにいた頃は20~30%が雑談だったのが、リモートでは2~5%に減った」と体感を語っています。
失われた非公式な会話と「雑談」の重要性
タスク中心のコミュニケーションが加速する一方で、多くの人が「失われた」と感じているのが、オフィスでの何気ない会話、いわゆる「ウォータークーラー・トーク」です。廊下ですれ違った同僚との立ち話や、コーヒーを淹れながらの雑談といった、予定されていない非公式なコミュニケーションの機会が激減したのです。「以前はオフィスを歩けば誰かに会って話ができたけれど、今は積極的に約束を取り付けなければならない。多くの情報が抜け落ちてしまう」と、ある参加者はその変化を指摘しています。
こうした非公式な雑談の減少は、単に「寂しい」という感情的な問題にとどまりません。研究では、リモートコミュニケーションでは、相手の表情や声のトーン、身振り手振りといった非言語的な情報(ボディーランゲージ)が読み取りにくく、文脈理解が難しくなる点が指摘されています。「相手が本当に理解しているのか、不快に思っているのかが分からない。まるで暗闇でナビゲートしているようだ」と、ある参加者はその困難さを表現しています。
オフィスにいれば自然と耳に入ってきた周囲の会話や、誰が何に取り組んでいるかといった情報も、リモートでは得にくくなります。これが、プロジェクトの進行に必要な細かな情報共有の遅れや、誤解を生む一因となる可能性も考えられます。つまり、コミュニケーションの「質」が変化したと言えるでしょう。以前は業務の合間に自然発生していた「余白」の会話が失われ、スケジュールされた会議やチャットがタスク処理のための手段としてより強く意識されるようになった結果と言えます。
もちろん、仕事を進める上でタスク指向のコミュニケーションは不可欠です。しかし、そればかりになると、チームの一体感や信頼関係の醸成が難しくなったり、新しいアイデアが生まれにくくなったりするかもしれません。この「タスク偏重」と「雑談の減少」が、後の生産性やウェルビーイングにどう影響するのか、注目すべき点です。
「誰と」「どんな話」がカギ?リモートコミュニケーションが生産性・ウェルビーイングに与える影響
では、こうしたリモート環境でのコミュニケーションは、私たちの生産性やウェルビーイングに具体的にどのような影響を与えるのでしょうか。研究結果から見えてきた全体的な傾向を、コミュニケーションの相手(チームか上司か)と内容(タスク指向か関係指向か)に着目して見ていきましょう。
チームとの会話:仕事の話は生産性UP、でも頻度が多いとストレスも?
まず、チームメンバーとのインタラクションについてです。研究によると、タスク指向(仕事中心)の会話が多いほど、自己申告による生産性が高まるという結果が示されました。以下の表1によると、チームとのインタラクションの種類がよりタスク指向である場合、生産性に対する効果の係数は 0.16
となっており、これは統計的に有意な正の相関(p < .005)を示しています。つまり、仕事に直結する話が多いほど、生産性が上がると報告されたのです。これは、仕事の連携や問題解決がスムーズに進むことを反映していると考えられます。
一方で、チームとの インタラクションの「頻度」 に注目すると、興味深い傾向が見られました。表1では、チームとのインタラクションの頻度が高い場合、生産性に対する効果の係数は 0.15
と、こちらも統計的に有意な正の相関(p < .005)を示しています。つまり、頻繁にやり取りするほど生産性は向上する、という結果です。しかし同時に、ウェルビーイングに対する効果の係数は -0.08
となり、これは統計的に有意な負の相関(p < .05)を示しています。つまり、インタラクションの頻度が高いほど生産性は向上するものの、同時にウェルビーイングは低下する(ストレスが高まる)可能性が示唆されたのです。これは、頻繁なコミュニケーションが集中を妨げたり、情報過多による精神的な負担増につながったりする可能性を示しているのかもしれません。「量」と「質」のバランスの難しさがうかがえます。
表1:インタラクションの量と種類が自己申告による生産性とウェルビーイングに与える影響
インタラクションの種類(よりタスク指向) | チーム | 上司 | |
---|---|---|---|
生産性 | 効果 | 0.16 *** | -0.09 * |
外向性による調整効果 | 0.10 * | 0.10 * | |
ウェルビーイング | 効果 | 該当なし | 0.07 * |
外向性による調整効果 | 0.18 *** | 0.11 ** |
インタラクションの量(より頻繁) | チーム | 上司 | |
---|---|---|---|
生産性 | 効果 | 0.15 *** | -0.08 * |
外向性による調整効果 | 該当なし | 該当なし | |
ウェルビーイング | 効果 | -0.08 * | -0.06 (.) |
外向性による調整効果 | 該当なし | 該当なし |
(.) は p < .1 ; * は p < .05 ; ** は p < .01 ; *** は p < .005 を示す
上司との会話:雑談が生産性UP、でも頻度が多いと逆効果?
次に、上司とのインタラクションです。こちらはチームとの場合とは少し異なる結果となりました。上司との会話では、関係指向(仕事以外の雑談なども含む、よりリラックスした会話)のインタラクションが多いほど、生産性が高まる傾向が見られました(表1:生産性への効果 -0.09* は、関係指向であるほど生産性が高いことを意味します)。逆に、タスク指向のインタラクションは、生産性をわずかに低下させる可能性が示唆されています。ただし、上司とのタスク指向のインタラクションは、ウェルビーイングの向上(ストレスの低下)にはつながるという側面もありました(表1:ウェルビーイングへの効果 0.07*)。一筋縄ではいかない関係性です。
また、上司とのインタラクションの「頻度」については、チームとの場合と同様に注意が必要です。上司とのインタラクション頻度が高いと、生産性もウェルビーイングもやや低下する傾向が見られたのです(表1:生産性への効果 -0.08*、ウェルビーイングへの効果 -0.06(.))。これは、上司との頻繁なやり取りが、マイクロマネジメントと受け取られたり、プレッシャーになったりする可能性を示唆しているのかもしれません。
このように、リモートコミュニケーションの影響は、「誰と」「どんな種類の話をするか」「どのくらいの頻度で行うか」によって複雑に変化することが分かります。
あなたの性格タイプは?外向性で変わる最適なコミュニケーション戦略
この研究で特に興味深いのは、個人の「外向性」の度合いが、これらのコミュニケーション効果をどのように左右するのか(調整効果)を分析した点です。その結果、外向的な人と内向的な人では、効果的なコミュニケーションのあり方が異なる可能性が明らかになりました。
チームとの会話:外向型は「関係重視」、内向型は「タスク重視」で成果アップ
まず、チームメンバーとのインタラクションです。 図2は、チームとのインタラクションが生産性とウェルビーイングに与える影響を、全体、内向的な傾向の人(Introverts)、外向的な傾向の人(Extraverts)に分けて示したものです。
図2:チームとのインタラクションにおける外向性の調整効果
インタラクションタイプが生産性とウェルビーイングに与える影響を矢印で示しています。上向き矢印は正の効果(生産性向上、ストレス軽減=ウェルビーイング向上)、下向き矢印は負の効果を示します。
この図2を見ると、外向的な傾向の人(Extraverts)は、チームとの会話がより「関係指向」である場合に、生産性もウェルビーイングも高まる傾向が見られます。これは、外向的な人が人との交流を通じてエネルギーを得やすく、雑談などを通じたチームとのつながりが仕事への意欲や安心感につながることを示唆しています。
一方、内向的な傾向の人(Introverts)は、チームとの会話がより「タスク指向」である場合に、生産性もウェルビーイングも高まる傾向にありました。内向的な人にとっては、目的の明確な仕事中心のコミュニケーションの方が集中しやすく、効率的に成果を上げられると感じるのかもしれません。また、余計な雑談による刺激が少ない方が、精神的な負担も軽減される可能性があります。
上司との会話:外向型は「タスク重視」、内向型は「関係重視」で成果アップ
次に、上司とのインタラクションにおける外向性の影響です。興味深いことに、こちらはチームとのインタラクションとは逆のパターンが見られました。 図3は、上司とのインタラクションタイプとウェルビーイングの関係を示しています。
図3:上司とのインタラクションがウェルビーイングに与える影響(外向性のレベル別)
横軸がインタラクションタイプ(左が関係指向、右がタスク指向)、縦軸が自己申告のウェルビーイング(正規化スコア)を示します。線が右上がりならタスク指向でWB向上、右下がりなら関係指向でWB向上を意味します。外向性が高い人(オレンジの線)はタスク指向で、内向性が高い人(青の線)は関係指向でウェルビーイングが高まる傾向が分かります。
図2(右側のSupervisorの列)と図3から、外向的な傾向の人(Extraverts)は、上司との会話がより「タスク指向」である場合に、生産性もウェルビーイングも高まる傾向が見られました。外向的な人は、上司とは仕事の目的や進捗を明確に共有し、具体的な指示やフィードバックを得ることで、より安心して業務に邁進できるのかもしれません。
逆に、内向的な傾向の人(Introverts)は、上司との会話がより「関係指向」である場合に、生産性もウェルビーイングも高まるという結果でした。内向的な人にとっては、上司との1対1の場で、仕事の話だけでなく、少しリラックスした雑談などを交えることで、信頼関係を築き、安心して相談できる環境が整うことが、結果として仕事のパフォーマンス向上やストレス軽減につながるのかもしれません。
これらの結果は、リモートワークにおける最適なコミュニケーション方法は一様ではなく、相手がチームメンバーなのか上司なのか、そして自分自身や相手が外向的なのか内向的なのかによって、大きく異なることを強く示唆しています。
より良いリモートコミュニケーションを実現するために:3つの視点からのヒント
今回の研究結果は、画一的なアプローチではなく、個別性を重視したコミュニケーション戦略の重要性を示しています。では、具体的にどのような点に気をつければよいのでしょうか。個人、マネージャー、そしてチームそれぞれの視点からのヒントをまとめました。
【個人としてできること】自分の傾向を理解し、主体的に関わる
まずは、自分自身が外向的なのか内向的なのか、どのようなコミュニケーションを心地よく感じ、どのような状況でパフォーマンスが上がりやすいのかを自己理解することが第一歩です。 例えば、内向的な傾向の人は、チームとのやり取りでは無理に雑談を盛り上げようとせず、タスク中心の明確な情報交換を心がける。その一方で、上司との1on1では少し意識して仕事以外の話題も振ってみる、といった主体的な工夫ができるかもしれません。逆に外向的な傾向の人は、チームのオンラインランチ会などに積極的に参加して交流を深めつつ、上司とは仕事の目標や進捗について具体的な議論を重視するなど、状況に応じたバランスを取ることが重要です。
【マネージャーとしてできること】メンバーの個性に合わせた1on1とフィードバックを
マネージャーは、チームメンバー一人ひとりの性格特性やコミュニケーションの好みを把握し、それぞれに合わせたアプローチを心がけることが求められます。画一的なコミュニケーションではなく、例えば1on1ミーティングの進め方やフィードバックの方法を、相手の個性に応じて調整することが有効でしょう。 内向的なメンバーには、安心して話せるようにじっくりと耳を傾け、関係構築を意識した会話を多く取り入れる。外向的なメンバーには、仕事の目標や期待役割を明確に伝え、具体的な成果につながるディスカッションを重視する、といった対応が考えられます。メンバーの性格タイプを正確に知ることは難しいかもしれませんが、日々の観察や対話を通じて、その人に合った関わり方を見つけていく努力が重要です。
【チームとしてできること】「意図的な雑談」と「効果的な会議」で活性化
チーム全体としては、失われがちな非公式なコミュニケーションの機会を「意図的に」作り出す 工夫が有効です。例えば、業務連絡とは別に雑談専用のチャットチャネルを設けたり、定期的にオンラインでのコーヒーブレイクや懇親会(参加は任意)を実施したりすることが考えられます。 また、長時間化しがちなオンライン会議については、目的を明確にし、参加者を絞り、アジェンダを事前に共有するなど、より効果的で負担の少ない運営を心がけるべきでしょう。時には、「会議をしない」という選択肢も重要です。コミュニケーションの「量」だけでなく、「質」と「タイミング」を見直しましょう。
【結論】画一的なアプローチを超えて:個別性を活かすリモートコミュニケーションの新常識
今回の研究は、リモートワーク環境におけるコミュニケーションの影響が、インタラクションのタイプ(仕事中心か関係重視か)、相手(チームか上司か)、そして個人の性格(外向的か内向的か)という3つの要因によって、いかに複雑に変化するかを明らかにしました。特に、外向的な人と内向的な人では、生産性やウェルビーイングを高めるための最適なコミュニケーション戦略が、相手によって逆転するという事実は非常に示唆に富んでいます。
この結果は、リモートワークを成功させるためには、企業も個人も、画一的なコミュニケーションルールに頼るのではなく、個々の状況や特性に合わせた、より柔軟で個別最適化されたアプローチを取り入れていく必要があることを教えてくれます。自分自身やチームメンバーの個性を理解し、それぞれの強みを活かせるようなコミュニケーション環境を意識的に構築していくことが、これからのリモートワーク時代の「新常識」と言えるでしょう。あなたの働き方を見直すきっかけになれば幸いです。
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参考資料: