公開日
オフィス回帰は本当に必要?職場環境と5つの実践が組織を変える

近年、RTO(Return-to-Office、オフィス回帰)の動きが加速しています。しかし、RTOを実施したものの、従業員のエンゲージメントが低下したり、期待したほどの生産性向上が見られなかったりするケースも少なくありません。
本記事では、McKinsey Quarterlyが2025年2月に発表した「Returning to the office? Focus more on practices and less on the policy」に基づき、RTOポリシーそのものではなく、職場環境と具体的な「プラクティス(実践)」に焦点を当てることこそが、組織のパフォーマンス向上に不可欠であることを解説します。
RTOの現状と課題 - 勤務モデルは重要ではない?
McKinseyの調査によると、2023年から2024年にかけて、主にオフィスで勤務する従業員の割合が大幅に増加していることがわかります。これは、多くの企業が従業員に週4日以上のオフィス勤務を義務付けたことが背景にあります。
2023年から2024年にかけての勤務モデルの変化
しかし、興味深いことに、同調査では、従業員が主にオフィス勤務、ハイブリッド勤務、リモート勤務のいずれのモデルで働いているかに関わらず、全体的な仕事の経験には改善が必要であると回答しています。
具体的には、従業員の満足度、離職意向、バーンアウト(燃え尽き症候群)といった指標を見ると、いずれの勤務モデルでも、これらの指標に大きな差は見られません。つまり、どこで働くかという「勤務モデル」そのものが、従業員のエンゲージメントや生産性を決定づける主要な要因ではない可能性が示唆されます。このことから、企業はRTOポリシーの厳格さよりも、従業員がどのように働いているかという点に注目すべきだと言えるでしょう。
組織のパフォーマンスを向上させる5つのコアプラクティス
では、RTOの成否を分ける、より重要な要素とは何でしょうか?McKinseyは、組織のパフォーマンスを向上させるためには、以下の5つのコアプラクティス(実践)に焦点を当てるべきだと提唱しています。
- コラボレーション(Collaboration): チームメンバー間の効果的な協力、情報共有、共同作業。
- コネクティビティ(Connectivity): 組織内のメンバー間の繋がり、一体感、帰属意識。
- イノベーション(Innovation): 新しいアイデアを生み出し、実験し、改善を繰り返すこと。
- メンターシップ(Mentorship): 経験豊富なメンバーが、若手メンバーの成長を支援すること。
- スキル開発(Skill development): 従業員が新しいスキルを習得し、能力を向上させること。
これらの実践は、RTOの主な理由としてリーダーがよく挙げるものです。しかし、McKinseyの調査によると、多くの組織で、これらのコアプラクティスが十分に機能していない現状が明らかになっています。
5つのコアプラクティスに対する従業員の評価(勤務モデル別)
この図を見ると、どの勤務モデルにおいても、5つのコアプラクティスに対する従業員の評価は、決して高いとは言えません。特に、ハイブリッドモデルにおいては、他のモデルよりわずかに高いものの、全体として低い評価となっています。
リーダーと従業員の認識ギャップ - なぜプラクティスが機能しないのか?
なぜ、5つのコアプラクティスは、多くの組織で十分に機能していないのでしょうか?その原因の一つとして、McKinseyは、リーダーと従業員の間に、これらのプラクティスに対する認識のギャップが存在することを指摘しています。
5つのコアプラクティスに対するリーダーと従業員の認識の比較
上図からわかるように、リーダーは、自社のプラクティスが効果的に機能していると認識しているのに対し、従業員はそうは思っていないケースが多く見られます。この認識ギャップが、プラクティスの効果的な実施を妨げている可能性があります。リーダーは、自身と従業員の認識の差を理解し、従業員の視点に立ってプラクティスを見直す必要があります。
プラクティスを強化する「イネーブラー」 - 具体的なアクションプラン
それでは、5つのコアプラクティスを強化し、組織のパフォーマンスを向上させるためには、具体的に何をすればよいのでしょうか?McKinseyは、各コアプラクティスを強化するための具体的な要素として「イネーブラー(enablers)」を提唱しています。イネーブラーとは、プラクティスを機能させるための行動、ポリシー、または規範のことです。
5つのコアプラクティスを強化するイネーブラー(勤務モデル別)
上図は、各コアプラクティスを強化するための具体的なイネーブラーを、勤務モデル別に示しています。例えば、コラボレーションを強化するためには、目標の共有(Goal alignment)が、すべての勤務モデルにおいて重要であることがわかります。
以下に、各コアプラクティスを強化するための、具体的なアクションプランをいくつか紹介します。
コラボレーション
- 目標の明確化と共有: チーム全体の目標、各メンバーの役割と責任を明確にし、全員が同じ方向を向いて仕事に取り組めるようにする。定期的な進捗確認で、目標達成をサポートする。
- 定期的なミーティング: 週次または隔週で、チーム全体の進捗状況を確認し、課題を共有するミーティングを実施する。
- 1on1ミーティング: 定期的に、上司と部下が1対1で話し合う機会を設ける。業務上の相談だけでなく、キャリア形成についても話し合うことが望ましい。
- コミュニケーションツールの活用: チャット、ビデオ会議、プロジェクト管理ツールなどを活用し、スムーズな情報共有とコミュニケーションを促進する。ツールの使い方を周知し、誰もが使いこなせるようにする。
コネクティビティ
- リーダーシップの発揮: リーダーは、組織のビジョンや目標を明確に伝え、従業員の共感を高める。定期的にメッセージを発信し、従業員との対話を促進する。
- チームビルディング: チームの結束力を高めるためのイベントや活動(ランチ会、懇親会、チーム旅行など)を実施する。オンラインでのイベントも検討し、リモートワーカーも参加しやすいようにする。
- オープンなコミュニケーション: 従業員が自由に意見やアイデアを表明できる、風通しの良い職場環境を作る。匿名で意見を言える仕組みも有効。
- 感謝の気持ちを伝える: 日頃の感謝の気持ちを伝え合う習慣を作る(サンクスカード、表彰制度など)。
イノベーション
- 心理的安全性の確保: 従業員が安心して新しいアイデアを提案したり、失敗を恐れずに実験したりできる環境を作る。失敗を責めるのではなく、そこから学ぶことを奨励する。
- 多様な人材の登用: さまざまなバックグラウンドやスキルを持つ人材を採用し、多様な視点を取り入れる。
- 失敗を許容する文化: 失敗から学び、改善を繰り返すことを奨励する文化を醸成する。
- リソースの確保: 新しいアイデアの創出や実験に必要なリソース(時間、予算、設備など)を提供する。
- リーダーのサポート: リモートワークの従業員には、特にリーダーのサポートが重要。
メンターシップ
- メンター制度の導入: 経験豊富な従業員をメンターとして任命し、若手従業員の成長を支援する制度を導入する。メンターとメンティーのマッチング方法を工夫し、効果的な関係を築けるようにする。
- コーチング: 上司や先輩社員が、部下や後輩社員に対して、定期的にコーチングを行う。
- キャリア開発支援: 従業員のキャリア目標を明確にし、その達成を支援するための研修や機会を提供する。
- 明確なコーチング体制: ハイブリットワークやリモートワークの場合、明確な体制が重要。
スキル開発
- 研修プログラムの提供: 従業員のスキルアップを支援するための、さまざまな研修プログラムを提供する。
- OJT(On-the-Job Training): 実務を通じて、先輩社員から直接指導を受ける機会を設ける。
- 自己啓発支援: 従業員の自己啓発を支援するための制度(書籍購入補助、セミナー参加費補助など)を設ける。
- スキル評価とフィードバック: 定期的に従業員のスキルを評価し、フィードバックを行う。
- リソースの活用: 企業はリソースを活用した学習機会を提供し、学習を推奨する。
RTOを成功させるために - 組織と個人の役割
RTOを成功させ、組織のパフォーマンスを最大化するためには、組織全体(経営層、人事部門)だけでなく、チームリーダー、そして従業員一人ひとりが、それぞれの役割を果たすことが重要です。
組織(経営層、人事部門)
- 明確な方針の策定と発信: RTOの目的、期待される効果、具体的な実施方法などを明確にし、全従業員に周知する。RTOは単なるオフィスへの復帰ではなく、組織文化の再構築であることを強調する。
- 柔軟な働き方の支援: 従業員の状況やニーズに合わせて、柔軟な働き方(リモートワーク、フレックスタイム制など)を選択できるようにする。
- 職場環境の整備: オフィス環境を、コラボレーションやコミュニケーションを促進するようなレイアウトに変更する。フリーアドレスや、目的に合わせて使い分けられる多様なスペースを用意する。
- ツールの導入: リモートワークやハイブリッドワークを支援するための、適切なツール(コミュニケーションツール、プロジェクト管理ツールなど)を導入する。
- 継続的な改善: 施策の効果を定期的に測定し、必要に応じて改善を続ける。従業員からのフィードバックを収集し、改善に活かす。
チームリーダー
- チームメンバーとのコミュニケーション: 定期的なミーティングや1on1を通じて、チームメンバーとのコミュニケーションを密にする。リモートワークのメンバーには、特に意識的にコミュニケーションを取る。
- 目標の共有と進捗管理: チーム全体の目標を明確にし、各メンバーの役割と責任を明確にする。進捗状況を定期的に確認し、必要に応じてサポートを提供する。
- フィードバック: チームメンバーに対して、定期的にフィードバックを行い、成長を促す。
- メンバーの状況を把握する: 各メンバーの状況を把握し、適切なサポートを提供する。仕事の状況だけでなく、メンタルヘルスの状態にも気を配る。
- 仕事の設計: 個人ワーク、チーム内コラボレーション、チーム間連携を組み合わせた仕事の設計を行う。
従業員
- 積極的にコミュニケーションを取る: 上司や同僚と、積極的にコミュニケーションを取り、情報共有や連携を密にする。
- 自己管理: リモートワークの場合は特に、自己管理を徹底し、生産性を維持する。
- スキルアップ: 自身のスキルアップに積極的に取り組み、変化に対応できる能力を身につける。
- フィードバックを求める: 上司や同僚にフィードバックを求め、自身の成長に繋げる。
- 変化を受け入れるマインドセット: 変化を前向きに捉え、積極的に適応する。
まとめ
RTO(オフィス回帰)は、単に「オフィスに戻る」ことだけが目的ではありません。RTOの成否は、RTOポリシーそのものよりも、組織がどのような職場環境を作り、従業員がどのように働くかにかかっています。
本記事で紹介した5つのコアプラクティス(コラボレーション、コネクティビティ、イノベーション、メンターシップ、スキル開発)と、それらを強化するイネーブラーを実践することで、組織は、従業員のエンゲージメントを高め、生産性を向上させ、持続的な成長を達成することができるでしょう。オフィス回帰を、組織文化を再構築し、より強固な組織を作るための機会と捉えることが重要です。
ぜひ、自社の職場環境を見直し、具体的な改善アクションを起こしてみてください。
開発生産性やチームビルディングにお困りですか? 弊社のサービス は、開発チームが抱える課題を解決し、生産性と幸福度を向上させるための様々なソリューションを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください!
参考資料: