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開発者の「感じ方」は2種類だった!? 94人調査で判明、認識ギャップを生むコミュニケーション

「昨日、口頭で『〇〇機能は△△のように修正して』と伝えたはずなのに、全く反映されていない…」「先週の会議で『このバグは優先度高で対応』と決めたはずなのに、なぜか後回しにされている…」「仕様書に明確に書いたはずなのに、認識がずれている…」
ソフトウェア開発の現場では、このような「伝えたはずなのに伝わらない」「認識がずれている」といったコミュニケーション不全が、日常茶飯事のように起こります。チームで協力して1つのソフトウェアを作り上げるためには、メンバー間の円滑なコミュニケーションが不可欠ですが、認識のずれは、バグの発生、手戻り、スケジュールの遅延など、プロジェクト全体に深刻な悪影響を及ぼしかねません。
では、なぜこのような認識のずれが起こってしまうのでしょうか?本記事では、Marc Herrmannらによる論文 “Different and similar perceptions of communication among software developers” (2025) の研究結果に基づき、ソフトウェア開発者のコミュニケーションにおける認識のずれの原因と、その対策について、具体的な事例を交えながら分かりやすく解説します。
開発者の「感じ方」は2パターンに分けられる - 94人の開発者調査
クラスタ分析で「感じ方」の違いを可視化
研究チームは、ソフトウェア開発者94人を対象に、ソフトウェア開発プロジェクトで日常的に交わされる典型的な96個の文章について、それぞれ「肯定的」「中立的」「否定的」のいずれの感情を表していると思うか、アンケート調査を実施しました。
その結果、驚くべきことに、開発者の「感じ方」は、大きく2つのグループに分けられることが明らかになりました。
下図は、クラスタ分析の結果を視覚的に示したものです。 横軸が個々の開発者を表し、縦軸は開発者間の「感じ方」の近さ(距離)を表しています。 左側の青色のグループ(16人)と、右側の赤色のグループ(78人)に分かれているのが分かります。
開発者の「感じ方」は2つのグループに分けられる
意見が分かれやすいのはどんな時? - 5つの具体例
では、具体的にどのようなコミュニケーションで、2つのグループの意見が分かれやすいのでしょうか?
研究チームは、開発者がどちらのグループに属するかを予測する上で、特に影響力の大きい5つの文章を特定しました。
下記の表は、その5つの文章と、それぞれの文章に対する2つのグループの反応をまとめたものです。
表 意見が分かれやすいコミュニケーションの5つの例
文番号 | 文の内容 | グループ1 (78人) | グループ2 (16人) |
---|---|---|---|
v21 | 比較時間は高速であるべきなので、合計実行時間は、各クエリの実行時間の合計よりわずかに長くなる程度であるべきです。 | 肯定:17.9% 中立:69.2% 否定:12.8% | 肯定:87.5% 中立:12.5% 否定:0% |
v49 | ネイティブライブラリをFILE_NAMEアプリケーションにリンクしようとしていますが、実行すると、シンボルが見つからないというCODE例外が発生します。 | 肯定:10.3% 中立:62.8% 否定:26.9% | 肯定:50.0% 中立:50.0% 否定:0% |
v57 | サービスを正常に呼び出すことができますが、応答を生成するときにクラッシュするようです。 | 肯定:9.0% 中立:83.3% 否定:7.7% | 肯定:81.2% 中立:12.5% 否定:6.2% |
v78 | 感謝します :) Coreによって完全にサポートされるようになり、本当に嬉しいです。あとはVehiclesのサポートがあれば、MaNGOSは完璧です =D おめでとうございます。 | 肯定:89.7% 中立:10.3% 否定:0.0% | 肯定:6.2% 中立:68.8% 否定:25.0% |
v80 | これは今、魅力的に機能しています :) | 肯定:93.6% 中立:6.4% 否定:0.0% | 肯定:25.0% 中立:75.0% 否定:0.0% |
技術的な内容?感情表現? - 意見が分かれるポイント
この表から、2つのグループ間で意見が大きく分かれるのは、技術的な内容に関する文章 と 感情表現を含む文章 であることが分かります。
技術的な内容の文章(v21, v49, v57)では、グループ2の方が肯定的に捉える傾向があります。これは、技術的な問題に対して、グループ2の方がより楽観的、あるいは解決志向である可能性を示唆しています。
一方、感情表現を含む文章(v78, v80)では、グループ1の方が肯定的に捉える傾向があります。これは、グループ1の方が、感謝や喜びといった感情表現を、より素直に受け止める傾向があるのかもしれません。
なぜ意見が分かれる? - 経験やスキルだけではない理由
性格、価値観、コミュニケーションスタイル… 多様な要因
興味深いことに、今回の研究では、開発者の性別、経験年数、プログラミングスキルといった属性と、意見の分かれ方との間に、明確な関連性は見られませんでした。つまり、「ベテランだから」「女性だから」といった属性によって、意見が分かれやすい、ということはないようです。
では、なぜ意見が分かれてしまうのでしょうか?
分析結果は、個人の 性格、価値観、コミュニケーションスタイル など、より多様な要因が影響している可能性を示唆しています。
例えば、
- 楽観的な人 vs. 悲観的な人: 楽観的な人は、問題点よりも改善点に目を向けやすく、肯定的な意見を持ちやすいかもしれません。一方、悲観的な人は、問題点を重視し、否定的な意見を持ちやすいかもしれません。
- 直接的な表現を好む人 vs. 間接的な表現を好む人: 直接的な表現を好む人は、「〇〇すべき」といった断定的な表現を肯定的に受け止めるかもしれません。一方、間接的な表現を好む人は、「〇〇すべき」という表現を、押し付けがましいと感じ、否定的に受け止めるかもしれません。
認識のずれを防ぐコミュニケーション術 - 4つの実践ポイント
認識のずれは、開発チームのコミュニケーションを阻害し、プロジェクトの進行を妨げる可能性があります。しかし、認識のずれが起こりうることを理解し、対策を講じることで、コミュニケーションの質を向上させ、スムーズなプロジェクト進行を実現することができます。
最後に、今回の研究結果を踏まえ、明日から実践できる4つのコミュニケーション術をご紹介します。
まずはここから! - 意見交換から始めよう
- 意見の分かれやすい5つの文を共有: まずは、表で紹介した5つの文について、あなたのチームのメンバーと意見交換してみてはいかがでしょうか?それぞれの文を読んで、どのように感じるか、率直に話し合ってみましょう。
- 1on1でじっくり対話: 定期的な1on1ミーティングは、認識のずれを確認する絶好の機会です。業務の進捗だけでなく、「最近、コミュニケーションで困っていることはない?」「〇〇さんのあの発言、どう思った?」など、率直に意見交換できる雰囲気作りを心がけましょう。
- 誤解を生まないドキュメント作り: 仕様書や設計書は、誰が読んでも同じように理解できるよう、明確かつ具体的に記述することが重要です。
- 曖昧な表現を避ける(例:「なるべく早く」→「〇月〇日までに」)
- 専門用語を使いすぎない(使う場合は、必ず解説を加える)
- 図表を積極的に活用する
- チームでコミュニケーション力UP: チーム全体でコミュニケーションに関するワークショップや研修を実施するのも効果的です。
- コミュニケーションスタイル診断(例:DiSC診断)を受けて、互いのスタイルを理解する
- アサーティブコミュニケーション(相手を尊重しながら、自分の意見を明確に伝える方法)を学ぶ
- ロールプレイング形式で、意見の食い違いが起こりやすい状況を体験し、対処法を学ぶ
まとめ
本記事では、ソフトウェア開発現場におけるコミュニケーションの認識のずれについて、94人の開発者を対象とした調査結果を基に解説しました。
調査の結果、開発者の「感じ方」は大きく2つのグループに分けられ、技術的な内容や感情表現を含む文章で、意見が分かれやすいことが明らかになりました。そして、認識のずれは、経験やスキルだけでなく、個人の性格、価値観、コミュニケーションスタイルなど、多様な要因が影響している可能性があることも分かりました。
認識のずれは、プロジェクトの成否を左右する重要な問題です。しかし、互いの「感じ方」の違いを理解し、コミュニケーションの方法を工夫することで、認識のずれを減らし、より円滑なチーム運営を実現することができます。
まずは、あなたのチームで、認識のずれが起こりやすいのはどんな時か、話し合ってみてはいかがでしょうか? そして、今回ご紹介した4つの実践ポイントを参考に、コミュニケーション改善に取り組んでみてください。
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参考資料: