開発者のAI活用、期待と現実のギャップとは?84%が利用もポジティブ感情は減少傾向〜Stack Overflow調査2025
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開発現場において、AIツールの導入はもはや特別なことではなくなりました。コード生成からデバッグ支援まで、AIは開発プロセスのあらゆる場面でその存在感を増しています。しかし、その急速な普及の裏で、開発者たちはAIに対してどのような感情を抱き、日々の業務にどう取り入れているのでしょうか。
本記事では、Stack Overflowが発表した「2025 Developer Survey」に基づき、世界49,000人以上の開発者の声を分析します。本調査は2025年5月29日から6月23日にかけて実施されました。AI活用のリアルな実態、開発者が直面する新たな課題、そして未来のテクノロジートレンドについて、データを基に詳しく解説していきます。
AI活用の実態:普及するツールと開発者の本音
AIツール利用率84%へ、しかし開発者のポジティブ感情は減少傾向
2025年の調査では、84%もの開発者が現在AIツールを利用している、または近いうちに利用する予定だと回答しました。これは昨年の76%から着実な増加を示しており、AIが開発ワークフローに不可欠な存在となりつつあることを裏付けています。特にプロの開発者の51%が日常的にAIツールを使用している点は注目に値します。
図表1: AIツールの利用頻度
一方で、ツールの普及とは裏腹に、AIに対する開発者のポジティブな感情は2023年、2024年の70%超から今年は60%へと減少しました。利用が広がる中で、その実用性や限界が冷静に評価され始めている段階と言えるでしょう。
図表2: AIツール利用に対する感情
信頼性への厳しい目:AIは「ほぼ正しいが、完全ではない」
ポジティブな感情が減少している背景には、AIの出力に対する信頼性の問題があります。AIの精度を「信頼している」開発者が33%であるのに対し、「信頼していない」開発者は46%と上回りました。
図表3: AIツールの出力精度への信頼度
開発者が直面する最大の不満として、66%が「AIのソリューションは、ほぼ正しいが完全ではない」点を挙げています。これが「AIが生成したコードのデバッグは、より時間がかかる」という2番目に大きな不満(45%)につながっており、AIを盲信するのではなく、最終的には人間の開発者が品質を担保する必要があることを示唆しています。
図表4: AIツール利用における不満点
AIエージェントの現在地:まだ主流ではないが生産性向上に貢献
自律的にタスクをこなすAIエージェントは、まだ開発現場で主流とは言えません。大多数の開発者(52%)はエージェントを使用しておらず、38%は導入の予定もないと回答しています。
図表5: AIエージェントの利用状況
しかし、利用している開発者のうち52%は、AIツールやエージェントが生産性にポジティブな影響を与えたと回答しており、特定のタスクの自動化や効率化において、その価値が認められ始めています。
図表6: AIツール/エージェントがもたらす生産性の変化
2025年の注目テクノロジー:AI時代に開発者が選ぶ技術とは
Pythonの採用が加速、AI・データサイエンス分野での地位を固める
10年以上にわたる着実な成長を経て、Pythonの採用が大幅に加速しています。2024年から2025年にかけて7パーセントポイントの増加が見込まれており、AI、データサイエンス、バックエンド開発の主要言語としての地位をさらに強固にする可能性を示しています。
図表7: プログラミング言語、スクリプト、マークアップ言語の人気(一部抜粋)
称賛される技術:Rust、Go、Zigが開発者の心をつかむ
開発者が「使い続けたい(Admired)」技術として特に高い評価を得ているのがRust(72.4%)です。また、今後「使ってみたい(Desired)」技術としては、Go、Rust、Zigなどが上位に挙がっており、パフォーマンスや安全性に優れた言語への関心の高さがうかがえます。
基盤技術の動向:DockerとPostgreSQLの人気は健在
開発環境やインフラを支えるツールでは、Dockerが71.1%の圧倒的な使用率を誇ります。データベース分野では、PostgreSQL(55.6%)とMySQL(40.5%)が引き続き開発者に最も広く利用されています。これらの基盤技術の安定した人気は、堅牢なアプリケーション開発に不可欠であることを示しています。
図表8: クラウドプラットフォームの技術(一部抜粋)
図表9: データベースの技術(一部抜粋)
開発者の働き方とキャリア:AIは脅威か、それとも仲間か?
仕事への満足度は向上、要因は「自律性」と「報酬」
今年の調査では、現在の仕事に「満足している」と答えた開発者は24%に達し、昨年の20%から増加しました。この満足度の向上は、特定の職種における給与水準の上昇と関連している可能性があります。
図表10: 仕事への満足度
開発者が仕事の満足度において最も重視する要因は、「自分のタスクを管理できる自律性と信頼」(総合ランク1位)、次いで「競争力のある給与と福利厚生」(総合ランク2位)でした。裁量権を持って働ける環境と、それに見合った報酬が、開発者のモチベーションを支える重要な要素であることが分かります。
図表11: 仕事の満足度に貢献する要因(一部抜粋)
満足度の要因 | 総合順位 | 中央値順位 | 最頻値順位 |
---|---|---|---|
自分のタスクを管理できる自律性と信頼 | 1 | 4 | 1 |
競争力のある給与と福利厚生 | 2 | 5 | 1 |
現実世界の問題を解決すること | 3 | 5 | 1 |
困難で複雑な問題を解決することによる革新 | 4 | 6 | 2 |
プロジェクトの品質レベルを管理できること | 5 | 6 | 4 |
一つの雇用主の元での雇用の安定とキャリア成長 | 6 | 7 | 1 |
チームからの協力とサポート | 7 | 7 | 8 |
新しい技術やツールを使って働くこと | 8 | 7 | 5 |
上司が好きであること | 9 | 8 | 14 |
専門的な専門知識を身につけること | 10 | 8 | 11 |
AIは仕事を奪うか?薄れゆく楽観と開発者の不安
AIは現在の仕事にとって脅威だと思いますか?という問いに対し、64%の開発者は「脅威ではない」と回答しました。依然として多数派ではあるものの、この数字は昨年の68%から減少しており、AIの能力向上に伴い、開発者の間に少しずつ不安が広がっている様子がうかがえます。
図表12: AIは現在の仕事への脅威か?
まとめ:AIと共存する開発者の未来
Stack Overflow 2025 Developer Surveyから見えてきたのは、AIを積極的に受け入れつつも、その能力を冷静に見極めようとする開発者の姿でした。AIツールの利用は拡大を続けていますが、出力の完全性には課題が残り、多くの開発者はAIを万能なソリューションではなく、あくまで補助的なアシスタントとして捉えています。
- AI活用の浸透: 84%の開発者がAIツールを利用または利用予定。しかし、ポジティブな感情はピーク時より減少。
- 信頼性の課題: 「ほぼ正しいが完全ではない」AIの出力が最大の不満点。最終的な品質担保は依然として人間の役割。
- 注目技術: AI開発を背景にPythonの人気が加速。Rustなどは開発者から高い評価を獲得。
- キャリアと満足度: 仕事の満足度は向上傾向。要因は「自律性」と「報酬」。AIへの脅威認識は、楽観が少しずつ薄れつつある。
これからの時代、開発者には単にコードを書く能力だけでなく、AIという強力なツールをいかに賢く、効果的に使いこなし、その出力の正当性を判断できるかが一層求められることになるでしょう。AIとの共存を前提とした新たなスキルセットの構築が、未来を生き抜く開発者にとっての重要な鍵となります。
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参考資料