【経産省最新版】サプライチェーンのデータ連携を成功に導くシステム構築のポイント
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カーボンニュートラルの実現や経済安全保障の観点から、企業や国境を越えたサプライチェーン全体の可視化とデータ連携が急務となっています。しかし、各企業が独自のルールやシステムでデータを管理している状態では、効率的な連携は困難です。
本記事では、経済産業省 デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)が公表した「データ連携の仕組みに関するガイドラインの手引き サプライチェーン共通編 1.0版」(2026年3月)に基づき、企業間のデータ連携を円滑に進めるための業務要件やシステムアーキテクチャの設計ポイントを解説します。
サプライチェーンデータ連携が求められる背景
世界的な環境規制の強化やサプライチェーンの強靭化への要求が高まる中、企業間でデータを共有し活用する仕組みの構築が不可欠となっています。
企業が直面する「売れない・買えない・覗かれる」リスク
現在の製造業をはじめとする各産業では、サプライチェーン全体でのデータ管理に対応できなければ、事業継続に関わる大きなリスクを抱えることになります。具体的には、以下の3つの危機が懸念されています。
- 売れないリスク: 欧州電池規則のように、製品のライフサイクル全体での温室効果ガス(GHG)排出量などを提出できなければ、海外市場で製品を販売できなくなる可能性があります。
- 買えないリスク: 有事の際にサプライチェーンの状況が可視化されていなければ、必要な部品を調達できず、製品の製造がストップする恐れがあります。
- 覗かれるリスク: 海外の当局や企業から規制対応を理由に、営業秘密を含む詳細なデータの提供を求められる可能性があります。
これらのリスクを回避するためには、企業のデータ主権を守りながら、必要な相手と安全にデータをやり取りできる「データスペース」の構築が必要です。
図表1:サプライチェーンの安定とデータ主権の確保
データスペース構築に向けた基本原則
データ連携を安心・安全に行うためには、オープンなデータスペースの標準モデルである「ODS-RAM(ウラノス・エコシステム・データスペーシズ リファレンスアーキテクチャモデル)」が志向する原則を踏襲することが基本となります。
データ主権の確保とモデル規約の活用
データ連携において最も重要なのは「データ主権」の確保です。これは、企業が自らのデータに対して主権を持ち、その利用や共有に関する意思決定を自ら行う権利を指します。
データ提供者は、利用相手、保存場所、利用条件(加工の制限や開示範囲など)を自己決定できる仕組みが必要です。また、参加者間で営業秘密を守りつつ安全にデータを流通させるために、データスペースの運営事業者が主体的に関与する「モデル規約」を活用し、ルールに基づいた公平な連携環境を構築することが推奨されています。
図表2:データ主権
トレース識別子を用いたトレーサビリティの確保
製品のトレーサビリティを確保するためには、サプライチェーン上の取引関係と製品構成を正確に記録・追跡できなければなりません。
そのためには、データスペース上で発行されるユニークな「トレース識別子」を製品のインデックスとして割り当てます。この識別子同士を紐付けることで、「製品と仕入品の構成関係」および「企業間の取引関係」をシステム上で管理し、機密性の高い構成情報(BOM)の全容をむやみに開示することなく、必要なデータのみを川上に向かってトレースできる仕組みを実現します。
図表3:トレーサビリティの確保
複雑な商流パターンに対応する業務要件
実際のサプライチェーンでは、単純な1対1の取引だけでなく、多様で複雑な商流が存在します。システムを構築する際は、これらのパターンに柔軟に対応できる汎用的な設計が求められます。
13種類の商流パターンと各企業の役割
ガイドラインの手引きでは、連携手法が特殊なケースや商流自体が特殊なケースなど、組み合せを含めて対応すべき具体的な商流パターンを13種類定義しています。
例えば、同一の部品を複数の企業から仕入れる「複社手配」や、商社を経由する「直送手配(パススルー)」、さらにはデータスペースに参加していない企業が存在するケースなどです。データ連携システムは、これら一つひとつの例外に個別対応するのではなく、包括的に処理できる仕組みを持つ必要があります。
また、業務フローにおいては、製品を上市する「最川下企業」、中間に位置して自社製品の連携データを算出する「川中企業」、原材料を供給する「最川上企業」のそれぞれが果たすべき役割と手順(製品の特定、連携の依頼と回答、データの更新管理)を明確に定義することが重要です。
図表4:想定される具体的な商流パターン一覧(抜粋)
| # | ケース | 商流パターン |
|---|---|---|
| 1. 同部品・異商流(仕入れ) | 回答の連携・積算手法が特殊 | 同一型名(品番)の部品・部材を複数企業から仕入れている場合(複社手配)。 |
| 4. 異材料・異単位 | 回答の連携・積算手法が特殊 | 部品・部材・原料が異なる単位で納品されている場合。 |
| 6. 直送手配(回答送付) | 商流自体が特殊 | 算出依頼先企業が商社等の直送企業(パススルー企業)である場合。 |
| 9. 回答不可 | 回答入力が特殊 | 川上の依頼先仕入先の回答が不可能な場合(川下企業による代行入力)。 |
| 10. データスペース不参加 | 特殊なユーザのケース | 商流上にデータスペースへの不参加ユーザが存在する場合(他システム・海外データスペースのユーザ等)。 |
公平性を担保するビジネスアーキテクチャ
多様な企業が参加するデータスペースを持続的に運用するためには、特定の企業に有利にならない、中立的で公平なビジネスアーキテクチャの設計が欠かせません。
間接契約型モデルによるデータスペース運営
企業間のデータ連携では、データスペース運営事業者による公平な管理が重要視されます。ガイドラインの手引きでは、運営事業者が主体的な役割を果たす「間接契約型」のモデルを想定しています。
このモデルでは、データ提供者とデータ利用者が直接契約を結ぶのではなく、双方がデータスペース運営事業者と契約を結びます。これにより、運営事業者がデータ流通のルールを統一し、どの参加者に対しても同じ条件を提示できるため、利用条件がわかりやすくなり、連携への参加ハードルを下げる効果が期待できます。すべてのステークホルダが自身の役割を認識し、適切な費用と便益のバランスが取れる構造を設計することが成功の鍵となります。
図表5:データ連携のビジネスアーキテクチャ
相互運用性を支えるシステムアーキテクチャ
複数のデータスペースやアプリケーションが連携するためには、システムアーキテクチャの標準化と相互運用性の確保が必須です。
ODS-RAMに基づく機能配置とインダストリーサービス
システムアーキテクチャの構成にあたっては、ODS-RAMのコアコンポーネントをベースに採用します。その上で、個別のユースケースに応じた「インダストリーサービス」を接続してデータスペースを構築します。
データレイヤには、データ所有者の主権を担保する「ソブリンデータストア」や、製品構成を管理する「トレーサビリティ管理システム」が配置されます。また、アプリケーション側には、ユーザ認証、事業者・事業所情報の管理、そして製品情報の紐付け登録やデータ検索を行うための連携機能(API等)を最低限実装することが求められます。
図表6:データスペースの機能配置図
おわりに
サプライチェーンのデータ連携は、一企業のみの努力で完結するものではなく、関係するすべての企業が共通のルールと標準化されたシステム基盤のもとで協力する必要があります。
本記事で紹介したガイドラインの手引きの内容を活用し、データ主権の保護と相互運用性を両立するデータスペースの構築を進めることで、企業は変化の激しい市場環境においても柔軟かつ安全に対応することが可能になります。自社のシステム設計や業務フローの見直しに、ぜひお役立てください。
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参考資料: