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CIの効果、測定してますか?開発生産性を高める「CIモニタリング」の効果とは

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多くのソフトウェア開発チームにとって、継続的インテグレーション(CI)は、今や当たり前のプラクティスとなっています。コードの変更を頻繁にメインブランチにマージし、自動化されたビルドとテストを実行することで、統合時の問題を早期に発見し、開発サイクルを高速化させる。そのメリットは広く知られています。しかし、あなたのチームでは、CIを導入したことによる効果を、具体的にどのように測定・評価しているでしょうか?

本記事では、Jadson Santos氏らが発表した論文「Monitoring Continuous Integration Practices in Industry: A Case Study」(2025年)に基づき、CIの「モニタリング」が開発チームの生産性や意識にどのような影響を与えるかを解説します。この研究は、CIをただ導入するだけでなく、その実践状況を継続的に監視することが、チームを次のレベルへ引き上げる鍵であることを示唆しています。

CIモニタリングに関する実証的研究

この研究では、ブラジルに拠点を置く3つの異なる組織(公立大学のIT部門、グローバルテクノロジー企業、州議会)の開発チームを対象に、8週間にわたる事例研究が行われました。研究チームは、CIのプラクティスを測定するための7つのメトリクス(コミット頻度、コードカバレッジ、ビルド時間、ビルド成功率など)を自動で収集・可視化するツールを開発し、各チームに提供しました。

そして、サーベイや週次のインタビューを通じて、CIのモニタリングが開発者の満足度、チームの行動、そしてCIプロセスの成熟度にどのような変化をもたらしたかを詳細に調査しました。

CIモニタリングがもたらす3つの重要なメリット

調査の結果、CIプラクティスを継続的にモニタリングすることは、チームに対して主に3つのポジティブな影響を与えることが明らかになりました。

メリット1:CIプロセスの全体像を可視化する

開発者は、日々の業務の中でCIサーバーの通知(ビルドの成功/失敗など)は見ていますが、プロセス全体の健全性を俯瞰する機会は多くありません。今回の研究で提供されたモニタリングツールは、これまで複数のツールに散らばっていた情報(GitLabのパイプライン状況、SonarQubeのカバレッジなど)を一つのダッシュボードに集約しました。

これにより、チームは「ビルド時間が最近長くなっている」「テストカバレッジが低下傾向にある」といった、これまで見過ごされがちだった問題点を即座に認識できるようになりました。ある参加者は、「このツールは、問題と考えられる側面の可視性をもたらしてくれた」と述べており、プロセスの健全性を客観的なデータで把握できることの価値を強調しています。

メリット2:データに基づき、改善への意欲を刺激する

CIモニタリングに関するインタビューで最も多く言及されたテーマは、「改善への意欲」でした。ダッシュボード上でCIプラクティスの状況が赤裸々に可視化されることで、開発者は自分たちのプロセスの問題点を「自分ごと」として捉え、改善に向けた具体的なアクションを起こすモチベーションが高まりました。

CIモニタリングに関するインタビューでの主要テーマを示した円グラフ。

図表1: CIモニタリングに関するインタビューでの主要テーマを示した円グラフ

例えば、あるチームでは、ビルド時間が非常に長いことが問題だと感じてはいたものの、具体的な行動には移せていませんでした。しかし、モニタリングによって「8時間以上かかっている」という事実がデータで示されたことで、依存関係の見直しなど、具体的な調査に着手するきっかけとなったのです。

実際に、モニタリングを導入したことで、CIの各種メトリクスが改善する様子も観察されました。特に、ある組織ではテストカバレッジが顕著に向上しており、モニタリングが改善活動に直接的な影響を与えたことが伺えます。

CIモニタリングによるプラクティスの改善効果を示したグラフ。 図表2: CIモニタリングによるプラクティスの改善効果を示したグラフ。

メリット3:チーム内のコミュニケーションを活性化させる

共通のデータや指標を持つことは、チーム内のコミュニケーションを円滑にします。CIモニタリングのダッシュボードは、チームがCIについて議論するための「共通言語」となりました。

「このメトリクスの値について話し合う機会があった」と参加者が語るように、これまで個人の感覚に頼りがちだったプロセスの問題について、客観的なデータに基づいて会話ができるようになりました。これにより、より建設的で効率的な議論が促進され、チーム全体でCIプロセスを改善していくという文化の醸成にも繋がったのです。

開発者が本当に求めていること

一方で、この研究は、開発者がCIモニタリングに関して抱いている期待も浮き彫りにしました。

既存ツールへのシームレスな統合

モニタリング自体に大きなデメリットは報告されませんでしたが、多くの開発者は、今回のようなモニタリング機能が、普段から使い慣れているGitLabやGitHubといったCI/CDプラットフォームに直接統合されることを望んでいました。

新しいツールを導入・学習するコストは、多忙な開発者にとって決して小さくありません。CIのパイプライン設定からモニタリング、結果の確認までが単一のプラットフォームで完結すれば、よりスムーズにCIモニタリングを実践できるようになるでしょう。このことは、CI/CDツールベンダーにとって、今後の機能開発の重要なヒントとなるかもしれません。

まとめ:CIを次のレベルへ進化させるために

今回の事例研究は、CIを「導入して終わり」にするのではなく、その実践状況を継続的に「モニタリング」することの重要性を明確に示しました。CIモニタリングは、チームにプロセスの全体像を提示し、データに基づいた改善を促し、コミュニケーションを活性化させます。

あなたのチームでも、一度立ち止まって、CIプロセスの健全性を測るための指標について話し合ってみてはいかがでしょうか。まずはビルド時間やテストカバレッジといった基本的な指標を定期的に確認することから始めるだけでも、これまで見えていなかった新たな課題や改善のヒントが見つかるかもしれません。


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参考資料:

Author: vonxai編集部

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