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エンジニアリングチームの生産性向上:オライリーによる2024年最新レポート分析
ソフトウェアエンジニアリングチームのパフォーマンス向上は、常に組織の重要な課題です。効果的な目標設定、適切なパフォーマンス測定、そして継続的な学習機会の提供など、多岐にわたる取り組みが求められます。しかし、多くのチームがパフォーマンス向上に苦戦しているのではないでしょうか? どこから手をつければ良いのか、悩んでいるリーダーも多いはずです。
LeadDevとO’Reillyが共同で発行した「Engineering team performance report 2024」は、約1,000人のエンジニアリングリーダーへの調査に基づき、組織におけるチームパフォーマンス測定の現状と課題を明らかにしています。本稿では、このレポートの主要な洞察を解説し、チームを最適化するためのヒントを探ります。
目標設定:OKRとKPI、そしてその落とし穴
明確な目標設定は、チームのパフォーマンス向上に不可欠です。レポートによると、多くの組織がOKR(Objectives and Key Results)またはKPI(Key Performance Indicators)を使用してチーム目標を設定しています。半数(50%)の回答者が四半期ごとのOKRを設定し、約3分の1(31%)が年次OKRを設定しています。KPIを利用する組織は28%、OKRとKPIを併用する組織は29%でした。
チーム目標設定プロセス
しかし、目標設定はしただけでは意味がありません。レポートは、設定した目標がチームメンバーに正しく理解されているかどうかの確認が重要であることを示唆しています。ビジネス目標がエンジニアリングチームに適切に伝達されていると回答した割合は、CTOレベルでは60%である一方、エンジニアリングマネージャーレベルではわずか21%に留まりました。
ビジネス目標の理解度(役割別)
目標設定プロセスにおいては、リーダーが目標の背景や意図を丁寧に説明し、チームメンバーとの共通認識を醸成する努力が不可欠です。
パフォーマンス測定:何を見るべきか、どう改善するか
チームのパフォーマンスを正しく測定することは、改善活動の第一歩です。レポートによると、ユーザー満足度が最も重視される指標として挙げられました。顧客視点の指標を重視することで、真に価値のある開発を行うことができます。続いて、ROI(投資収益率)、SLO(サービスレベル目標)の達成などが重要視されています。
インパクト測定指標
開発生産性指標としては、サイクルタイム(特定のタスクの開始から完了までにかかる時間)が最も有用な指標として2年連続でトップにランクインしました。サイクルタイムを短縮することで、開発プロセス全体の効率化を図ることができます。続いてリードタイム、デプロイ頻度も上位にランクインしています。
生産性指標の有用性ランキング
一方で、コード行数、プルリクエスト数、クローズしたチケット数といった作業量を示すだけの指標は、避けるべきだと多くの回答者が指摘しています。これらの指標は、開発者の行動を歪め、真の生産性向上に繋がらない可能性があります。
避けるべき指標
パフォーマンス測定には様々なツールが利用されていますが、レポートではJiraとDashboardsが主流であることが明らかになりました。
パフォーマンスレポートツール
適切な指標を選択し、効果的にツールを活用することで、チームのパフォーマンスを可視化し、改善につなげることが重要です。
学習と能力開発:成長を促す環境づくり
継続的な学習と能力開発は、エンジニアのモチベーション維持とパフォーマンス向上に不可欠です。レポートでは、回答者の70%がエンジニアの学習と能力開発を組織の優先事項と回答しています。その目的は、人材維持、開発者の満足度維持、そしてチームパフォーマンスの向上です。技術的な知識ギャップの解消が最も重視されており、78%の組織がスキルアップに力を入れています。リーダーシップ、戦略、コミュニケーションといったソフトスキル開発も重要視されています。
学習と能力開発に投資する理由
しかし、多くの組織が学習機会の提供に課題を抱えています。時間不足や、学習へのインセンティブ設計の難しさなどが挙げられます。66%が学習時間を増やしたいと考えており、44%は学習に対するインセンティブ、22%は報酬との連動を希望しています。効果的な学習機会を提供するためには、組織としての支援体制の構築が不可欠です。
学習とスキルアップを改善する方法
チーム連携:生産性を高めるコミュニケーション
チームワークは、高いパフォーマンスを発揮するために不可欠な要素です。レポートによると、47%が毎週、28%が毎日、他のチームと連携して業務を進めています。しかし、チーム連携には課題も存在します。タスクの優先順位付け(69%)とオーナーシップ/説明責任の明確化(61%)が主な課題として挙げられています。
チーム連携における課題
効果的なチーム連携を実現するためには、コミュニケーションツールを活用したり、定期的なミーティングを設定したりするなど、情報共有とコミュニケーションを促進するための仕組みづくりが重要です。
DORAとSPACEの普及:DevOpsの成熟度を測る
DORA(DevOps Research and Assessment)とSPACE(Satisfaction, Performance, Activity, Communication, and Efficiency)は、DevOpsの成熟度を測るための主要なフレームワークです。DORAは、デプロイ頻度、変更リードタイム、変更失敗率、サービス復旧時間という4つの主要指標で、ソフトウェアデリバリーパフォーマンスを評価します。SPACEは、満足度、パフォーマンス、活動、コミュニケーション、効率性の5つの指標から、より包括的にチームの健康状態を評価します。
レポートによると、これらのフレームワークの認知度と満足度は向上しており、多くの組織がチームパフォーマンス向上に役立てています。
DORAとSPACEの有効性
DORAとSPACEを導入することで、チームの現状を客観的に把握し、改善のための具体的なアクションを検討することができます。
パフォーマンスレポートの課題:指標選びと時間不足
チームパフォーマンスを適切に報告することは、現状把握と改善活動において非常に重要です。しかし、レポートによると、多くのチームが報告に課題を感じています。最も多く挙げられた課題は「適切な指標の選択」で、次いで「時間的な制約」、「ツール/ダッシュボードの不足」、「指標の不統一」などが続いています。
パフォーマンスレポートの課題
これらの課題を解決するためには、チームの目的に合った指標を選択し、報告プロセスを効率化するためのツールやテンプレートを活用することが重要です。
まとめ:継続的な改善でパフォーマンス向上へ
本レポートは、エンジニアリングチームのパフォーマンス向上に関する現状と課題、そしてその解決策を示唆しています。組織はこれらの知見を活かし、自チームに最適な戦略を策定し、継続的な改善に取り組むことが重要です。 本稿で紹介した内容が、あなたのチームのパフォーマンス向上に役立つことを願っています。
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参考資料: