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生成AIはソフトウェア開発をどう変える?DORAによる最新レポート

近年、ソフトウェア開発の現場で生成AIの活用が急速に広がっています。コード生成、ドキュメント作成、テスト自動化など、さまざまな場面で生成AIが活用され、開発者の生産性向上や業務効率化に貢献することが期待されています。しかし、その一方で、生成AIの導入には課題やリスクも存在します。
本記事では、Google CloudのDORAチームが発表した「DORA Report - Impact of generative AI in software development」(2025年)に基づき、生成AIがソフトウェア開発に与える影響を、開発者個人と組織の両方の視点から詳しく解説します。さらに、生成AIの導入を成功に導くための実践的な戦略について、具体的なステップを交えてご紹介します。
開発者の生産性と満足度を向上、しかし「価値ある仕事」の時間は減る?
生産性、フロー、仕事の満足度: 生成AIがもたらす明確なメリット
DORAレポートによると、生成AIを積極的に活用している開発者は、生産性が向上し、フロー状態(集中して作業に取り組める状態)に入りやすくなり、仕事の満足度も高くなる傾向にあることが分かりました。
下図は、AIの採用が個人の成功と幸福度に与える影響を示しています。AIの採用が25%増加すると、フロー状態が2.6%、仕事の満足度が2.2%、生産性が2.1%向上すると推定されています。
AI導入が個人の成功と幸福度に与える影響
これらの結果は、生成AIが開発者の日常業務を効率化し、より創造的でやりがいのある仕事に集中できる環境を整える上で、有効なツールであることを示唆しています。具体的には、以下のようなメリットが考えられます。
- 定型的なコーディング作業の自動化: 生成AIは、単純なコードの記述や、よくあるパターンのコード生成を自動化できます。
- ドキュメント作成の効率化: 仕様書やAPIドキュメントの作成を支援し、開発者の負担を軽減します。
- テストケースの自動生成: 生成AIは、テストコードの自動生成や、テストカバレッジの向上に貢献します。
価値ある仕事の減少と燃え尽き症候群: 生成AI導入で見過ごせない課題
一方で、DORAレポートは、生成AIの利用が増えるほど、開発者が「価値ある仕事」に費やす時間が減少する可能性があることも指摘しています。
DORAレポートでは、開発者が仕事の価値をどのように捉えているかを理解するために、5つの視点(功利主義的価値、評判価値、経済的価値、本質的価値、快楽主義的価値)からなるフレームワークを提示しています。
開発業務における「価値」の5つの見方
価値 | 意味 | 生成AIによるプラスの影響 | 生成AIによるマイナスの影響 |
---|---|---|---|
功利主義的価値 | 「私の仕事は世界に影響を与える」 | 生産性向上 | - |
評判価値 | 「私は仕事で認められる」 | 生産性向上 | 成果の帰属が不明確になる |
経済的価値 | 「私は仕事に見合う報酬を得ている」 | 生産性向上 | 開発スキルの相対的価値が低下する |
本質的価値 | 「私の仕事はそれ自体に価値がある」 | - | 教育水準が変わる |
快楽主義的価値 | 「私の仕事は楽しく、やりがいがある」 | 生成AIを使うこと自体が楽しい | 生成AIによって、楽しい作業が時代遅れになる可能性がある。 |
このフレームワークに基づくと、生成AIは、生産性向上を通じて功利主義的価値、評判価値、経済的価値を高める可能性があります。しかし、開発者が「楽しい」「やりがいがある」と感じていた作業(快楽主義的価値)を生成AIが代替することで、仕事の価値が損なわれる可能性も否定できません。例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 創造的な問題解決の機会の減少: 生成AIがコードの大部分を生成することで、開発者が自ら考え、問題を解決する機会が減る可能性があります。
- スキルアップの機会の減少: 生成AIに頼りすぎることで、開発者が新しい技術や知識を学ぶ意欲を失う可能性があります。
ただし、DORAレポートでは、生成AIの利用と燃え尽き症候群との間に、明確な関連性は見られなかったと報告されています。この点は、今後のさらなる調査が待たれます。
組織のコード品質は向上、しかしデリバリーのパフォーマンスは低下?
コード品質、ドキュメント品質、コードレビュー: 生成AIが組織にもたらす貢献
DORAレポートは、組織レベルでは、生成AIがコード品質、ドキュメント品質、コードレビューの速度を向上させることを明らかにしています。
下図は、AIの採用が組織に与える影響を示しています。AIの採用が25%増加すると、ドキュメント品質が7.5%、コード品質が3.4%、コードレビュー速度が3.1%向上すると推定されています。
AI導入が組織に与える影響
これらの結果は、生成AIが、より高品質なソフトウェアを、より迅速に開発するための強力なサポートツールとなり得ることを示しています。具体的には、以下のような効果が期待できます。
- コードの品質向上: 生成AIは、コードの構文エラーや潜在的なバグを検出し、コードの品質向上に貢献します。
- ドキュメントの品質向上: 生成AIは、コードのコメントやドキュメントの自動生成を支援し、ドキュメントの品質と保守性を向上させます。
- コードレビューの効率化: 生成AIは、コードレビューの指摘事項の自動生成や、コードの変更点の要約を支援し、コードレビューの効率化に貢献します。
なぜデリバリーのパフォーマンスが低下するのか?: 原因の深掘りと具体的な対策
しかし、DORAレポートでは、生成AIの利用が、ソフトウェアデリバリーのパフォーマンス(スループットと安定性)を低下させる可能性があることも指摘されています。
下図は、AIの採用がデリバリーのスループットと安定性に与える影響を示しています。AIの採用が25%増加すると、デリバリーの安定性が7.2%低下すると推定されています。
AI導入がデリバリーのスループットと安定性に与える影響
この原因として、DORAレポートでは、生成AIによってコードの生成速度が向上した結果、変更の単位(チェンジリスト)が大きくなり、テストやレビューが追いつかなくなる可能性を指摘しています。つまり、生成AIによって開発の「量」は増えるものの、「質」が伴わない可能性があるということです。
この問題を解決するためには、生成AIを活用しつつも、以下のDevOpsの原則を忠実に守ることが重要です。
- 小さな単位での開発: 生成AIで大量のコードを一度に生成するのではなく、小さな機能単位で開発を進める。
- 継続的インテグレーション(CI): コードの変更を頻繁に統合し、自動テストを実行する。
- 自動テスト: 単体テスト、結合テスト、UIテストなど、さまざまなレベルの自動テストを実装する。
- 継続的デリバリー/デプロイメント(CD): ソフトウェアのリリースを自動化し、迅速かつ安全にユーザーに価値を届ける。
生成AI導入を成功に導く: 組織と個人のための実践的戦略
組織が取り組むべき4つの戦略: 透明性、懸念への対処、学習機会、ポリシー策定
DORAレポートは、生成AIの導入を成功させるために、組織が取り組むべき4つの戦略を提示しています。これらの戦略は、組織全体の意識改革と具体的な行動を促すためのものです。
- 透明性のある情報共有: AI戦略、目標、導入計画を従業員に明確に伝える。
- AI戦略に関する社内説明会を開催する。
- AI導入に関するロードマップを公開する。
- AIに関するQ&Aセッションを設ける。
- 懸念への対処: 開発者の不安や疑問に、率直かつ具体的に対応する。
- 開発者との1on1ミーティングを実施する。
- 匿名での質問を受け付けるアンケートを実施する。
- AI導入に関する懸念事項をまとめたFAQを作成する。
- 学習機会の提供: 生成AIに関するトレーニング、ワークショップ、ハンズオンなどを実施する。
- 外部講師を招いた研修を実施する。
- オンライン学習プラットフォームを導入する。
- 社内ハッカソンを開催する。
- ポリシー策定: 生成AIの利用に関する明確なガイドライン(利用範囲、データセキュリティ、倫理規定など)を策定する。
- AI倫理委員会を設置する。
- 利用規約を作成する。
- 定期的なポリシーの見直しを行う。
下図はさまざまなAI導入戦略と、それらの効果の関係を示しています。
様々な戦略がAI導入に与える影響
開発者個人が実践すべきこと: 実験、スキル習得、品質重視、知識共有、ユーザーファースト
DORAレポートは、開発者個人に対しても、生成AIを効果的に活用するための5つの提言を行っています。これらの提言は、個人のスキルアップと、生成AIとの協調を促すためのものです。
- 実験: さまざまな生成AIツールを試し、自分の業務に最適なものを見つける。
- 無料トライアルやオープンソースのツールを活用する。
- 異なるプログラミング言語やフレームワークで試してみる。
- チーム内で情報共有し、ベストプラクティスを見つける。
- スキル習得: プロンプトエンジニアリングなど、生成AIを使いこなすためのスキルを習得する。
- オンラインコースや書籍で学習する。
- プロンプトエンジニアリングのワークショップに参加する。
- 実践的なプロジェクトを通じてスキルを磨く。
- 品質重視: 生成AIの出力を鵜呑みにせず、必ずレビュー、テスト、修正を行う。
- コードレビューの基準を設ける。
- 静的解析ツールやリンターを活用する。
- テスト駆動開発(TDD)を実践する。
- 知識共有: 生成AIに関する知識や経験を、チームやコミュニティと共有する。
- 社内勉強会を開催する。
- 技術ブログやZennなどのプラットフォームで情報発信する。
- カンファレンスやミートアップに参加する。
- ユーザーファースト: 生成AIを活用して、ユーザー体験を向上させることを最優先に考える。
- ユーザーインタビューやアンケートを実施する。
- ユーザビリティテストを行う。
- A/Bテストを実施し、効果を測定する。
生成AIのリスクと責任ある利用について
生成AIの利用には、セキュリティリスク、倫理的問題、知的財産権侵害のリスクなどが伴います。組織は、生成AIの利用に関する明確なポリシーを策定し、開発者に適切なトレーニングを提供し、リスクを最小限に抑えるための対策を講じる必要があります。また、開発者は、生成AIの出力を鵜呑みにせず、常に批判的な視点を持ってレビュー、テスト、修正を行うことが求められます。
具体的なリスクと対策の例:
- セキュリティリスク: 生成AIが生成したコードに脆弱性が含まれる可能性がある。
- 対策: コードレビュー、静的解析ツール、脆弱性診断ツールなどを活用する。
- 倫理的問題: 生成AIが差別的な表現や偏見を含むコンテンツを生成する可能性がある。
- 対策: 生成AIの学習データやアルゴリズムのバイアスを理解し、適切な利用を心がける。
- 知的財産権侵害: 生成AIが既存の著作物を無断で利用する可能性がある。
- 対策: 生成AIの利用規約を確認し、著作権に配慮した利用を心がける。
まとめ: 生成AIはソフトウェア開発の未来を拓く、ただし課題への対応は不可欠
DORAレポートは、生成AIがソフトウェア開発にもたらす可能性と課題の両方を明らかにしました。生成AIは、開発者の生産性や仕事の満足度を向上させ、組織のコード品質やドキュメント品質を高める一方で、ソフトウェアデリバリーのパフォーマンスを低下させる可能性も秘めています。
生成AIのメリットを最大限に引き出し、デメリットを最小限に抑えるためには、組織と個人が協力し、適切な戦略を立てて実行することが不可欠です。組織は、透明性のある情報共有、開発者の懸念への対処、学習機会の提供、ポリシー策定を通じて、生成AIの導入をサポートする必要があります。一方、開発者個人は、積極的に生成AIを試し、スキルを習得し、品質を重視し、知識を共有し、常にユーザーの視点を忘れずに開発に取り組むことが求められます。生成AIの進化とともに、私たち自身も進化し続けなければなりません。
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参考資料: